シブヤ大学

授業レポート

2017/11/1 UP

普段着のアフリカを民族布で探る

皆さんは「アフリカ」と聞いて何を思い浮かべますか?
多くの方は、まず「貧困」や「飢餓」「難民」といった、厳しい状況を思い浮かべるのではないでしょうか。
アフリカが日本のメディアに取り上げられるときはそのような暗い話題に偏りがちなため、
日本人の「アフリカ」に対するあまり良くないイメージが作られてきてしまったのかもしれません。

今回の先生は、そんなアフリカの「真の魅力を多くの日本人に知ってもらいたい」と
精力的に活動されている、アフリカ理解プロジェクトの白鳥くるみさんと佐々木桐子さんのお二人です。



授業のテーマは「布」。
皆さんもどこかでアフリカの方々が身につけている
色とりどりの民族衣装や布製品を目にしたことがあるのではないでしょうか。
アフリカと一口に言っても、その土地は広大で、多種多様な民族の人々が暮らしています。
各地にはそれぞれの地域で特色のある民族布があり、生活の中で欠かせないものとなっているとのこと。
『布』を入口として、その由来や意味など「普段着のアフリカを探る授業」の始まりです。



はじめに、講師の白鳥さんから、ご自身とアフリカとの関わりや、
アフリカ理解プロジェクトを立ち上げた経緯等のお話がありました。
白鳥さんは1970年代に青年海外協力隊員としてケニアに赴任し、教育分野の活動をされました。
その後もスリランカ、英国、タンザニア、エチオピアなど各国で教育分野のお仕事をされましたが、
アフリカでのお仕事が一番長く、通算20年以上になるそうです。

そのご経験から、アフリカのことを日本人にもっと知ってもらいたいとの思いで、
2003年にアフリカ理解プロジェクトを発足されました。
講演会やワークショップの開催のほか、アフリカ理解のための教材も製作されています。

また、白鳥さんが英国に滞在して初めて気づいたこととして、
アフリカで当たり前と思っていた社会のルールが、
実は植民地時代に英国から来たものであったというエピソードのご紹介がありました。
「植民地について調べるとアフリカのことがよく解る」というお話に、
学校での世界史や地理の授業が思い出された参加者も多いのではないでしょうか。



ここから、授業はいよいよ布の話題に入っていきます。

まずは参加者の各テーブルに用意された、7枚のアフリカの布を見たり触ったりして、
参加者同士で感想を話しました。
今回の参加者は、青年海外協力隊やお仕事でアフリカに滞在していた経験のある方、
布関係のお仕事でアフリカの布に関心をお持ちの方、アフリカが好きでもっと知りたいという方などで、
さまざまな布を実際に手にとってたくさんの感想が出されていました。
触感も見た目も異なる7枚の布ですが、全ての原料は綿で、
アフリカの伝統的な布は綿素材のものが多いとのことでした。
中には日本の藍染や絞り染めによく似たものや、インドネシアのバティックに似たものもあります。





インドネシアとの関連では、西アフリカ地域の代表的な布のひとつである
アフリカン・ワックスプリントの由来について興味深いお話がありました。

アフリカン・ワックスプリントは、19世紀に開発された機械プリントが発祥で、
それを製作したのはオランダ人。
彼らはオランダの植民地であったインドネシアにバティックを輸出する目的で機械を開発したものの、
本国では「手染めのバティック以外は認めない」との理由で需要がありませんでした。
そのため、別の販売先として見出されたのがアフリカ。
アフリカン・ワックスプリントの生地の多くが、
実はアフリカではなくオランダや英国、中国等で生産されているという事実に参加者一同驚いていました。
オランダの大手布メーカーがファッションブランドを立ち上げ、
今ではこのアフリカン・ワックスプリントの製品が欧米で大人気になっているそうです。





東アフリカ地域の代表的な布であるカンガも、実に魅力的でした。
大胆な柄が目を引くカンガですが、特徴はその全てにスワヒリ語で
ことわざやメッセージなどが書かれている「カンガセイイング」がデザインされていることです。
通常は同じデザインのものを2枚1組で使い、
2枚の組み合わせによってさまざまな着用方法が可能とのことでした。
普段着として誰もが使っているそうです。

このカンガも、実はパキスタン人が考案し、インド人が普及させたという経緯があるそうで、
なんとかつて日本でも生産されていた歴史があるとのこと。
遠く離れたアフリカですが、意外なところで日本との繋がりがあったことを知りました。



また、アフリカの布(アフリカン・ワックスプリント)の図柄には隠れた意味があり、
それを身につけることで密かに主張しているというエピソードも興味深かったです。
たとえば、今回の授業で参加者が作成したファブリックパネルに使用した布には
6本のボトルが描かれていますが、その意味は「私は6本のボトルを持てるほどお金持ち」とのこと。
ほかにも鶏と卵がデザインされた布は「家族の中心は実は私(母)」という意味だったり、
車やバイクに使うプラグが多数デザインされた布は「私は多くの男性にモテるほど魅力的」
という意味だったり。
アフリカの方々の独創性やユーモアが感じられます。

各地の布の特徴を学んだあとは、その着用方法の説明です。
1枚または2枚の平面の布が、巻き方や結び方によってさまざまな形に変化する様子に、
参加者一同興味津々でした。





そして参加者をモデルにしたアフリカ布の着付け体験。
白鳥さんが慣れた手つきでバリエーションに富んだ着付けを次々に披露してくださり、
参加者から歓声が上がりました。
中でも頭にターバンのように巻く方法はとてもおしゃれで、日本でも応用できそうでした。





授業の最後には、アフリカの布を使ったファブリックパネルを一人一枚作りました。
市販されている木枠とサイズを合わせてカットした布を使って、意外にも簡単に手作りできるのです。





この頃には参加者同士もすっかり打ち解け、和気あいあいと作業されていました。



アフリカの布を通して、アフリカの歴史や人々の生活を垣間見ることのできた授業となりました。

アフリカの布は民族のアイデンティティであり誇りであること。
その多くは手織りや手染めであり、
その伝統的な手法が雇用を生みアフリカの人々の生活の糧になっているということ。
しかしながら、アフリカの布と称される商品化された布・ファッションブランドの多くが
アフリカの人々がステークホルダー(関係者)として関わる機会がないまま商品化されていること。
搾取されるばかりのアフリカではなく、彼ら自身の手による布文化を発展させ守っていくこと、
それを支援していくことが大切ではないか―
白鳥さんの問いかけが印象的でした。

(レポート:西村直子、写真:西村直子/大森由紀子)