シブヤ大学

授業レポート

2017/6/27 UP

歩行のメソッド ~自分の美しさを知る~

最近、ウォーキングが見直されていますね。少し前までは、 1日1万歩歩くのがよいと言われていましたが、最近では、歩数よりも歩き方が見直されつつあります。誰もが普通に歩けるため、ウォーキングはとても簡単なものだと思われがちですが、 間違った歩き方では、せっかく歩いてもあまり効果が出ません。それどころか、変に癖がついた歩き方だと、かえって逆効果になることもあります。


 今回は、初心にかえっての歩き方講座。20代から80代までの幅広い年代の人が参加しました。まずは、みんなで何も考えずに歩いてみて、その様子を動画に撮り合います。それから、先生のレクチャーを受けました。


 日本に来た西洋人は「日本人は歩き方が変だ」 という感想を持つそうです。とりわけ若い女性が内またでポテポテと歩く様子が奇異に映るようです。これは足全体を使っていないから。西洋人の歩き方は、歩幅が大きく、かかとから勢いよく地面に着足する特徴があります。そのため、西洋人女性が日本で買った靴を履くと、まずヒールがダメになるそうです。

 内またを「かわいらしい」と思う感性は、日本舞踊の「娘歩き」に通ずる伝統的なものかも知れません。日本は、生活スタイルは西洋式になりましたが、立居振舞いについては古来の特徴がまだ残っているために、外国人の目にはおかしく映るようです。


 以前先生が勤務していた女子大で調査をしたところ、2000人の学生の内97%に足の異常(巻き爪、浮き足、外反母趾等)があり、健康な足を持っている人は3%のみだったそう。問題は見た目だけではありません。自分に合わない靴を履き続けたり、歩き方に歪みがあると、足の骨格が歪んでしまいます。それには、日頃から立ち方や歩き方を意識することが大切だということです。


 とはいえ、今回は「美しい歩き方」は目指さないという先生。


あくまで「自分に合った歩き方」を探すのが目標なのです。人の骨格はひとそれぞれ。自分にとって無理のない自然な歩き方をすれば、それが美的な印象につながっていくというわけです。

 日本人の多くには、着物を着た時のすり足の意識が残っているため、歩く時に膝が伸びきらず、歩幅が小さく、ちょこちょこ歩くそう。ずるずると靴を引きずるのも、日本人に特有の歩き方なのだそうです。

 着物を着た時には、膝を曲げたすり足でいいのですが、洋服を着ている場合には、やはり西洋式の立居振舞いに自分のからだを合わせなければなりません。和服を着た時にはつま先に、 洋服姿の時にはかかとに体重をかけます。そして「耳と肩」「鼻と臍」をまっすぐにつなぐだけで、背筋は伸びます。
 西洋の歩き方というと、ファッションショーのモデル歩きを連想しますが、そこではショーとしての見せ方の表現が大事にされています。西洋式の歩き方でも、背筋や足運びが安定していれば体幹がブレないので、腕は必ずしも振らなくていいのだそう。


 適切な歩き方を知った上で、今度は実践です。まず近くの人とペアを組んで、手足の骨格に意識を向ける練習。互いの手の指に触れ、骨をなぞってもらいます。すると写真のように両手でこんなにも差が。





 それから素足になり、指のどれかを押してもらいます。普段、素足で生活していないため、自分の足のどの指を押されているのか、なかなか当てられないことに驚きます。そうやって、自分の手足の骨格に意識を向けます。これまで自分の骨に注意を払うことなんてありませんでしたが、不思議なことに、これで見違えるほどに体幹バランスがよくなります。



 すると、歩き方にも変化が。

 骨格を意識したことで、 足の裏全体を使って歩くようになりました。ふたたび動画に撮ってもらうと、 我ながら違いがはっきり分かります。前よりもスッキリと歩けていました。銘々に歩き方の変化を実感して、参加者からは驚きの声が上がりました。


 「かかとからつま先へ」と足運びを意識すると、頭で指令を出しながら歩くことになるため、筋肉が緊張してぎこちない動きになってしまいます。からだの自然に適った歩き方とは、筋肉をリラックスさせて、骨だけを意識します。これは無駄な筋肉を使わないため、血の巡りが良くなって、 肌がきれいになり、心も爽快になるそうです。いいことづくし!


 参加者の皆さんは、はじめは静かに、おとなしそうに会場に入ってきましたが、受講後には誰もが生き生きと胸を張って、 颯爽と帰って行きました。意識ひとつで歩き方が変わり、歩き方ひとつでその人の雰囲気が変わることを実感できた授業でした。
(レポート:小野寺理香、写真:森岡遥)