授業レポート

2017/3/15 UP

伝統の味を100年先の世代へ
~変化し続ける老舗から挑戦の楽しみを知る~

生きていく上で日々欠かすことのできない「食」。
その中でも、日本に住むわたしたちは味噌や醤油を始めとした日本の伝統食材を口にしない日はない、といっても過言ではありません。

何百年ものあいだ人の手によって受け継がれ、守られてきた伝統食材たち。

それらの味や製法、作り手の技術や想いを、これから百年先の世代に残したいと考える若手生産者たちが結成した「HANDRED」というユニットがあります。



今回の授業の先生はそんなHANDREDのメンバーである、堀河屋野村(醤油・味噌/和歌山)の野村さん、宮坂醸造(清酒/長野)の宮坂さん、鈴廣かまぼこ(かまぼこ/神奈川)の中澤さんの3人。

それぞれが手がけた味噌、日本酒、かまぼこがふるまわれ、味と香ばしい香りを楽しむ中、授業スタート。



あらかじめ用意された質問にフリップを用いてひとことで答えていただき、詳しく聞きたい回答を生徒の多数決で選ぶ、という流れで、伝統あるものづくりを受け継ぐまでのストーリー、葛藤、未来への思いや挑戦をうかがいました。



「あらゆる食材が集まってはじめて一つの食事になる」

そもそもHANDREDというユニットは何故生まれたのか。原点は老舗ならではの「視野が狭まりがちになってしまう」という悩みだった、と話すのは、立ち上げの声かけをされた野村さん。


技術や味へのこだわりから、日々ものを作ることに専念し、何事も家業の中で完結しがちな老舗の仕事。しかし伝統食材自体、味噌だけ酒だけとそれだけを食べることはなく、必ず他の食材と組み合わせて始めてひとつの「食事」となるもの。それと同じく、老舗同士が集うことで、視野や活動のフィールドを広げたり、お互いに勉強する面を増やしたりできるのではと考えたのだそうです。

メンバーは、個人ではなく蔵同士で親交が深い間柄から声をかけたそうで、たとえばメンバーの一人である白扇酒造の加藤さんは、野村さんとのつながりから。伝統食材を作る工程で広く使われる木桶は、最初に酒蔵が作り、実際に製造で使ったあとのお古を、なんと酢・醤油・みりんの蔵本が買い取って使い回す文化がそうで、おふたりの蔵のつながりはその木桶のやり取りからだという、なんとも老舗らしいユニークさ。



一方、「グループとして活動するためにも、一つ大きな老舗に入ってほしい」という希望から加わったのが鈴廣かまぼこの中澤さん。元々電通で働いていた中澤さんが持つ人の縁の中で、HANDREDのロゴやプロモーションムービー、サイトなどが作られたそう。「並々ならぬ方々にお手伝いいただいています」と話されるだけあって、どれもクオリティの高いものばかり。

老舗と聞くと「門外不出」「秘伝」といったクローズドな単語を連想しがちでしたが、実は老舗同士の縁がとても深いこと、また、人と人とのつながりが活動を後押ししていることがよく分かります。

今も昔も、どなたも「美味しいものを作り広めるための手は惜しまない」といった思いが真髄にあり、それが生み出した深い縁なのだろうと思います。



「日本のご飯の文化っていいなと思った」


何百年と続く老舗の家業を継ぐ、ということはその名前や歴史を一気に背負うこと。そのプレッシャーの大きさや、決断への躊躇いがあることは想像に難くありませんし、実際、3人ともに前職を経たのちの決断だったと話されていました。

宮坂さんは「長男だからいつか継ぐことになるんだろうとは思っていた」と、老舗で生まれた方ならではの発言。ホームステイや旅を経験する中で「家族が集まって、2時間かけてゆっくり話をしながらご飯を食べる日本の食卓」を「イイじゃん!」と感じ、家業への興味がぐっと湧いたことが跡継ぎになった原点だそう。

食事がただ栄養を摂るための行為だけでないことは、普段の生活からも明白です。食べる場所や気候、相手、盛りの彩り、味の組み合わせ、お皿のセレクト、等々、食事を楽しむ要素は尽きることがありません。宮坂さんのお話のように、そんな「食文化」を楽しいと感じるからこそ長く食材は愛され続け、そして老舗はその技術や味を守り伝えることに繋がっていくのだと感じます。


「今あるものをそのまま継ぐ」

HANDREDというユニット名が表すように、百年先の世代に残したい、と考えるメンバーがやってみたいことはなにか、という質問に、「今あるものをそのまま継いでくれる環境を作ること」と迷いなく答えたのが野村さん。


野村さんは醤油と味噌を手がけていらっしゃいますが、江戸時代から残る蔵で手作業による麹付け、薪を用い一晩かける火入れ作業など当時から続く作業をそのまま今も行い、製法の機械化や電気を用いた工程は一切無いのだそう。

長く続くものだからこそ、後継者不足や知見の減少という問題を抱える老舗では、「なにかを変える」ことに限らず、「なにも変えずに守り伝える」ということ自体もまた大きな挑戦なのだと気付き、目から鱗でした。

「周囲とぶつかるほどに、信念を貫くこともまたひとつの答え」


誰かと一緒に働く中で、意見がぶつかることは誰しもあること。HANDREDのメンバーも、メンバー内や家業の先代と激しくぶつかることはもちろんあって、しかもお互いに譲らないので問題が長引いてしまうのだとか。

以前は仲介役として全員が納得するバランスを見つけようとしがちだったけれど、HANDREDの活動を経て「意見がぶつかって譲らないのはお互いに真剣にそのことへ向き合っているから」と気付き、信念を貫くこともまた答えだと考えを改めた、と話されたのが中澤さん。


なにか新しいことに挑戦する手前、つい躊躇いがちなときも、先代の「やるんだったらやるしかないだろ」という割り切った言葉を思い出すようにしているそう。
一度決めたことに揺らぎを持たない、という考えを「頑固」と形容してしまえばそれだけですが、裏を返せば「一切の妥協をしない」ことの表れ。
HANDREDでは「せっかくやるなら楽しいことしかやらない」というルールがあり、一人でも反対意見が出ればその場でその話は終わりだそう。
授業でも終止飛び交うぶれのない意見は、ひたむきな家業への想いが生み出す意志なのだと思いました。
真面目な話からメンバー同士の突っ込みまで、様々なトークを聞いている内に1時間半の授業はあっという間に終了。

元々わたしは自炊を良くするほうなのですが、これからはより、食材にフォーカスを当て、あちこち探すこともまた楽しみのひとつになりそうです。

(レポート:横溝遥、写真:榎本善晃)