シブヤ大学

授業レポート

2016/9/10 UP

観るだけでなくキミも気軽にトライアル!
演劇体験で初めて気付く「ヒトの気持ち」
〜ドラマトライアル〜

 





(会場は宮益坂十間スタジオ)


皆さんは「ドラマトライアル」がどんなものかご存知ですか?
ドラマトライアルとは、演劇の鑑賞のみではなく、台本を読み合わせ、観客自身の主体的な感情から演劇を組み立てるワークショップのことです。
この説明を読むだけで、なんだか楽しそうってワクワクしますよね。実際今回の授業は終始とってもワクワクするものでした。




まず教室に入ると、スタッフから「今日はお名前を捨てていただきます」とのアナウンスが。「名前を捨てる?!」そう、今回の授業中は自分の名前を捨て、有名人・キャラクターの名前になり切るのです。参加者は、教室内にあらかじめ用意されたたくさんの名札から『今日なりたい名前』を選んでいきます。お蝶夫人・イチロー・美輪明宏・ジバニャンなどたくさんの名前があって、ついつい悩んでしまいます。



インプット、演劇鑑賞


参加者全員が今日の名前を選んだところで、本日の先生であるPrayers Studio代表の『トモさん』こと渡辺朋彦さんからのご挨拶がありました。「世の中に役者をやりたい人は多いけれど、実際に演劇を観る人は少ない」とのこと。そこで演じることを観客にも体験してもらう!ということを始めたそうです。


でも演じるためには、役の気持ちが分からないと演じることができません。役が何を考え何を感じているのか?役の気持ちを引っ張り出して演じることは、心理学でいう『心の統合』といって、分断している心をつなぎ合わせ気持ちを開放させることにも繋がっているそうです。


そしていよいよPrayers Studioの役者さん2名による演劇鑑賞の始まりです。


教室の明かりが落ち、教会の鐘の音に乗せた音楽が暗闇の教室中に大きく鳴り響きます。「一体どんなドラマが始まるんだろう??」とワクワク感が高鳴ります。


今回の演劇は「蜜の味」というイギリスの戯曲のワンシーン。母親の結婚式の当日の母と娘のシーンですが、二人が親子であることが分かるのはしばらく経ってからでした。いきなり大きな声を上げ、いがみ合いを始める二人を観ながら、誰もが「この二人はどういう関係なのか」「なぜこんなにいがみ合っているのか?」「なぜ娘は母親の結婚式当日にこんな話題を持ち出すのか?」などいろいろな質問が頭の中を駆け巡ります。


そして何よりも、手が届きそうな距離で迫真の演技をしている2名の役者さんのパワーとオーラに圧倒されっ放しの30分でした。最後は母親が部屋を出ていき、残された娘が一人で泣きひしがれるシーンで終わるのですが、娘に感情移入しすぎて思わず涙しそうになった自分がいました。







シェア&インストール


演劇鑑賞が終わり誰もが自分の感情に浸っている中、今度は参加者同士でのシェアが始まりました。まずはペアでのシェア。その後は4~6人組のグループでそれぞれシェアをします。更にその後に参加者全員で演劇を観て感じたことのシェアを行いました。



この最後の全員でのシェアが実に面白かったです!実は鑑賞した演劇のワンシーンは、3時間ほどある演劇のほんの一部。登場人物の設定や物語の細かいところなどが、あえて分からないようになっています。そんな「分からないことだらけ」のシーンについて、参加者同志で役の気持ちや考えをシェアする。するとみるみるうちに物語の全体像や人物設定がイメージできてくるのです。トモさんが参加者にいろいろな質問を投げかけながら、それぞれが思うその時の役の考えや気持ちを”うまーく”引き出してくれました。




そして最後にトモさんから『実は原作はこういうストーリーでした』を発表。全体シェアでは、このストーリーに合致した意見も参加者から出ていましたね。


トモさん曰く、戯曲はパズルみたいに作られていて、いろいろなシーンを寄せ集めて一つの物語になってゆくのだそう。いろいろな解釈があり、唯一の正解はないそうです。



グループワーク「プチトライアル」


演劇のストーリーと背景が分かったところで台本が渡されました。そしてその台本を基に、二人ずつペアになってセリフ合わせを行います。母親役と娘役に分かれ、まずは相手の言っていることをしっかり耳で聞いて、自分のセリフを相手に届けることに意識しながらセリフを合わせていきます。



そして次に1ペアずつグループ内でセリフ合わせを披露し、お互いに鑑賞し合います。随時Prayers Studioスタッフの方々が「セリフを読んでみてどんな気持ちだった?」と質問を。自分の心の声に耳を傾けながら役の気持ちを考えていきます。


同じセリフを読んでいるのに、不思議とペアによって演じ方や見え方がだいぶ違います。それは、気づかないうちに演じている人のキャラクターが吐露されるからなんだそうです。『演じる』って本当に奥が深いですね!



ドラマトライアル


最後は各グループの選抜メンバー6名による『ドラマトライアル』。参加者の前で、3ペアに分かれて3つのシーンを演じていきます。一度、流しで演じた後に、トモさんが6名に一人ずつ丁寧に、気持ちの引き出しをしていきます。
「役の気持ちがどんなものだと思うか?」
「どんな気持ちでこのセリフを言っていると思うか?」
それぞれの参加者は「うーん、、。」と少し飲み込んだ後、自分の心の中の感情を少しずつ出していきます。すると今度トモさんは、
「自分だったらそういうシチュエーションで話す相手は誰か?」
「その人を思い浮かべながらどんな気持ちで話すか?」
と、更に踏み込んだ問いかけを投げかけながら、皆に役の気持ちを考えるヒントを与えていきます。



トモさん曰く「自分が芝居をしようとするのでなく、相手に芝居をさせる、相手をよく観察する」ことが大事なのだそうです。なるほど、日々の会話でも同じかもしれませんね。「自分が何を言いたいのか?」それを伝えるためには「相手が何を言いたいのか?」を想像すると意思疎通は密なものになるかもしれません。


最後は、照明と音響の演出も含めて3ペアが再度通して演じます。


トモさんから問いかけられたヒントを基に、役の気持ちを自分事として想像するきっかけが出来たこと。そのおかげで1回目の演技より、リアルにセリフを話し、抑揚をつけ、時には身振りもいれながら、感情を揺さぶる見事な演技を創作するに至りました!



トモさん先生からの締めの言葉


現代においては、我慢が重んじられ、感情を表に出す機会が減っているのでは、と。しかし、自分と向き合いそして表現することは、心の統合に繋がり健康にも良いそうです。
演劇を通して相手の気持ちを考え想像し、そして自分の気持ちを吐露する。
そういえば普段から、ここまで深く相手の気持を考えているでしょうか。
自分の本当の気持ちを表現しているだろうか。
そんなことを考えさせてくれる素敵な時間でした。




(あえてのWピース)


(レポート:児玉美奈子 写真:竹田憲一)