シブヤ大学

授業レポート

2016/9/10 UP

まちの小さな企業を訪ねて@電子書籍
~インターネットでデジタル本作り~

日本の産業を支える小さな企業を興し、継承してきた”人”にお話を聞く授業

日本には小さいからこその持ち味を、逆に強みにした企業がたくさんあります。オリジナリティにあふれたアイディアをビジネスとして成立させた、そもそもの始まりはどうだったのでしょう。いったいどんな方がどんな発想をもとにビジネスとして組み立て、さらにはどんな仲間たちと成功までの、またこれからの発展に希望を乗せているのでしょう。


今回は、渋谷区神宮前の「本とあなたをデジタルでつなぐ会社:株式会社ボイジャー」にお邪魔して、代表取締役の鎌田純子さんにお話を伺いました。


・ボイジャー社のあゆみ
ボイジャー社は1992年に設立された、日本初の電子出版専門会社です。本を読む一つの方法として電子出版、電子ブックは最近普及したように感じていましたが、鎌田さんは、24年前に仲間と電子書籍の会社を創業しました。

当時はウェブもまだ普及していない時代で、鎌田さんは大手企業でレーザーディスクをメディアに映像や音楽、テキストを駆使した作品を作っていました。パソコンを使えば、自由自在に素材を入れていけるし、頭出しやコンテンツの整理も簡単で、読む側にも便利でした。しかし、流通に乗せるにはレーザーディスクは非常にお金のかかる仕組みが必要だったため、資本力のある企業でないと作ることができなかったのです。

パソコンの急成長が予感されるそんな時代に、鎌田さんたちはパソコンを使って作り上げるマルチメディアの大きな可能性を感じて、仲間4人でボイジャーを設立しました。レーザーディスクのような資本投下をしなくても、パソコンの中でならその特長を活かし安価に制作できると実感していたのです。1993年には電子出版用フォーマット「EXPANDED BOOK」を発表し、デジタルとアナログをつなげる電子出版事業を開始。現在は読書システム「BinB」(ビー・イン・ビー)の開発とライセンスや電子本の出版サービス「Romancer」(ロマンサー)事業などを行っています。

インターネットの普及によってデジタルの本の環境が整ったことから、本の作成自体、紙の本全盛期の読んでもらうとか、与えてもらうパブリッシングではなく、著者や読者の意志の問題に変化してきたと鎌田さんは考えているそうです。

さらにはKindleやiBooksが登場し、電子本が読みやすくなった時、鎌田さんたちは本を作るほうも簡単にできないか、と考え“デジタルの本を、自分で作って、パブリッシングする”Webツール「Romancer」を開発・リリースしました。サイトには、紙の本の伝統を受け継いだ読みやすい体裁の整え方や、出版することの責任と意味なども丁寧に解説されています。作品を一般公開することや、販売するための仕組みも整えられているので自費出版がこんなに簡単にできるとは! という驚きがあります。その気になれば、国立国会図書館のデジタルコレクションに登録することもできるそうです。そこに自分の作品が永遠に保存されるなんて、夢のような話です。



・後半では「Romancer」の使い方を教えていただきましたが、実際に使ってみた授業コーディネイターの竹田さんは「とても簡単でした」とおっしゃっていました。Wordファイル(docx)をベースに作られているので、身近な感じがします。

ボイジャー社の事業は、企業規模に合ったサイズで進めていくことを方針としていて、横展開して事業拡大していくよりも、縦掘りをしていくイメージを受けました。できること、しないことの区別がとても明快。さらに事業継続のためには、「お給料と家賃」は待ったナシなので、ぜいたくをしないこと、取締役だからと社員と大きな格差をつけたお給料は設定しないこと、などを心がけているそうです。

そしてなによりも、デジタルであれ、紙であれ、「本」というものを、鎌田さんはじめボイジャーのみなさんは大切に思っているんだと感じました。実際に紙の本として出版した作品がいくつもあり、それらを手にして本について語る鎌田さんの熱が伝わってきたのです。

やっぱり本っていいなぁ、その本を自分で作ってみよう! と思いました。熱心に話を聞く受講者のみなさんの多くも、帰ったら「Romancer」をきっとチェックしているはず。




※ BinB サイトURL: http://binb-store.com/ (株式会社ボイジャーの電子書籍ストア)
※ Romancer  サイトURL: https://romancer.voyager.co.jp/


(レポート : 佐藤聖子/写真:渡邊絵美)