シブヤ大学

授業レポート

2016/5/27 UP

2016年2月吉日・遺言書を書く。
(遺言書のお作法~15歳から書けるって知ってました?!)

「遺言書なんて15歳から書けないよ」、「どんなことを書いたらいいの?」、「その前に、なんで書かなきゃいけないの?」などなど、興味がないわけではないけれど、どうしたらよいかよくわからない「遺言書」。
それが今回のテーマです。 


 司法書士の阿部文香先生は、


『遺言書は大切な誰かのため、そして、自分のために書くのです。』


とおっしゃいます。この3文字からはちょっと重苦しい雰囲気が漂ってきますが、歴史の話から具体的な書き方のポイントまで、いろんな視点で遺言書と向き合う楽しい2時間でした。


 ■遺言書っていつからあるんだろう?


  まずは歴史のお勉強から。遺言書っていつ頃からあるのでしょうか。明治?大正?戦国時代?みなさんいろんな想像をされていましたが、実は奈良時代から!


  養老律令という757年に施行された法律に「亡人在日処分證拠灼然者」と書かれています。通常は亡くなった方の遺産は法律に従って分配されたりお寺に納められたりするのですが、この一文は、「誰に遺産を残すか証拠を残しておけばその限りではない」という意味で、きちんと書面に残しておけば自分の希望の遺産相続ができたのだとか。遺言書というのは思ったより古くからあるのですね。 


 ■なぜ15歳から遺言書を書けるの?


 下のお写真がヒント。武士の時代は12歳〜17歳くらいで元服し、家督を継いだりしていました。財産も継ぐことになりますので、比較的若い年齢でも遺言書を書いていたようです。一方、明治時代の民法では男性17歳・女性15歳から結婚ができました。そして、「結婚が出来る」 → 「財産を持つことになる」 → 「相続の可能性が生じる」ということで、15歳から遺言書を書くことができます。


 現在の法律では女性が結婚できる年齢は16歳ですが、面白いことに、遺言書を書ける条件は15歳のままなのですね。

 
 成人が20歳で、選挙権は(今年の6月から)18歳からですので、15歳というとまだまだ子供。早すぎる気がしますが、何も昔の慣習をひきずっているから、ではないようです。


 法律上の概念に「意思能力」という言葉があって、これは、「自分の行為がどういうものか、どう影響を及ぼすのかを理解・判断できる能力」を指します。遺言書が書けるかどうかもこの「意思能力」を有しているかどうかがポイントで、15歳なら遺言の意味や効果を十分理解できる年齢である、ということで、法的にも15歳から書くことが認められているそうです。



■なぜ書くの?


 残したい財産があっても、遺言書がなければ、決められた割合で法定相続人へ機械的に分配されます。「家は娘で現金は息子に。」という故人の思い通りの分け方をしたり、法定相続人にはなれない友人に何かを残したくても、遺言書を書いておかなければそうはなりません。ですので、自分の意図通りになるように書くのです。


  大切なのは、誰に何を残したいのかをよく考えるということ。


 『何かを残すとき、そこには、残す人のたくさんの想いが詰まっています。』


 と阿部先生。確かに、持っているものを人に分けるとき、分配するという行為以上に、いろんな想いが頭をよぎります。そして、遺言書が効力を発揮するのが自分の死後、ということであれば、なおさらです。財産だけではなく故人の想いも残すことができるもの、それが、「遺言書」なのです。



 遺言書には「遺言事項」と「付言事項」という、大きく分けて二つのことを書きます。一つ目は、主に誰に何を残すのかで、遺言書の本体です。


 二つ目は、実は何を書いてもよいそうです。生前にお世話になった人への感謝の気持ちだったり、家族仲良くこういう生活を送って欲しい、など、故人の希望や想いを綴ることが出来ます。法的な文書なのに「人の想い」を書けるなんて面白いですよね。


 「まだ死なない」「縁起でもない」「うちの家族がしっかりやってくれる」など、書かない・書きたくない人の理由は様々なようですが、人間いつどうなるかわかりません。いざとなったときに書いてなかったら、せっかくの自分の想いが誰にも届かないことになります。そうなってしまったら寂しいですよね・・・



 また、遺書がないために借金などの負の遺産があることがわからず、死後だいぶ経ってから故人の借金が発覚して・・・ということもよくあるそうで、残したくないけれど残ってしまうものも、残される方々のためには書いておくべき、と先生からのアドバイス。


 阿部先生の


『遺言書を書くことは、自分の人生について振り返り、整理することでもあります。』


 という言葉に、遺言書に対する自分のイメージが変わりました。授業を受ける前は「自分の親が書くときの助けになれば」くらいにしか思っていませんでしたが、自分のために必要なことだと感じました。遺言書のために人生を振り返るのではなく、人生を振り返るために遺言書と向き合う、そんなスタンスがいいのかな、と個人的には思います。


■ということで書いてみました



 遺言書の種類には「自筆証書」「公正証書」「秘密証書」の3種類があるそうです(詳しく知りたい方はネットや書籍で調べてみてくださいね)。今回はこのうちの「自筆証書」タイプの遺言書をみなさんで書いてみます。


  この「自筆証書」の遺言書として認められる条件は、「全文・日付・氏名を自筆で書くこと」と「押印すること」。代筆やパソコンで印字したもの、音声やビデオレターなどもダメなんだとか。鉛筆やフリクションペンも控えた方がいいそうです。ですが、押印は認め印でも拇印でもOK。これさえ守れば、厳密な形式は決まっていないそうです。



 ここでちょっと注意。無効となってしまう遺言書に多いのが、この「日付」だそうです。必ず「年月日」が必要です。「2016年2月」と日を省略してはいけません。他の部分が完璧でも、「日」が入っていないために有効ではない遺言書を先生はたくさん見てきたとか。


 ということで、このレポートのタイトルにある「2016年2月吉日」という書き方はアウト。皆さん気をつけくださいね。 


 そして、いいですか?重要なのは「誰に何を残したいのか」です。ちなみに上の写真は私が書いてみたサンプルなのですが、独身なので「妹」くらいしか思い浮かばず・・・もう少し深くじっくりと人生を振り返ってみることにします。


■おわりに


 遺言書とは、「年齢的にそろそろ・・・」「相続したい資産が・・・」という、リアルに意識する方だけの特別なことでなく、生きている人なら誰にでも関係のある、身近なものであることがわかりました。実際に書く書かないは別としても、自分や親しい誰かのことをゆっくり考えるよいきっかけとなり、昨日よりちょっとだけ優しくなれた気がします。



 (レポート・小笠原大樹、カメラ・野原邦彦)