シブヤ大学

授業レポート

2016/2/26 UP

人に会いに行く旅をしよう。@長野県 塩尻市

人と出会う旅@塩尻


 有名なサッカー選手によると「人生とは旅であり、旅とは人生である」そうです。であれば、旅もたくさんの人と出会って、大いに笑った方が楽しいのです。きっと。
今回の旅は、長野県塩尻市。どんな出会いが待っているのでしょう・・
 
1日目:2月6日(土)
 朝8時、すっきりと晴れ渡った朝の渋谷から、元気に出発しました。
高速道路から見える諏訪湖の湖面は凍結。そして、高速道路を下りるとそこはもう雪国でした。
家の屋根や道端にはうず高く雪が積もっています。


 


 12:00 そば屋しみず 清水さん
1日目は、“和の塩尻”。
まずは、古民家を改装し、ご夫婦二人だけで切り盛りしている小さなお蕎麦屋で、麺の緑色が美しい“ひすいそば”をいただきます。
店主の清水さんからは「塩尻では、ぜひアナログで、心で楽しんできてください。」とのお話をいただきました。
はりきって、行ってきま~す!


 


13:30 合資会社丸永酒造場 蔵元杜氏 永原元春さん
丸永酒蔵は、明治4年創業の塩尻で最も歴史がある酒蔵です。
軒先にはツララが下がり雪国ならではの寒さなのですが、蔵の中もほぼ外気と同じくらいひんやりしています。
「日本酒造りは、酵母という生き物の力を借りて進めるもの。酵母が活躍しやすい温度、湿度に保ち、人間もその中で作業する必要があるのです。」寒い蔵の中ですが、案内してくれた永原さんはとてもエネルギッシュ。どんどん先に行って、熱心に説明してくれます。


 


もろみの発酵を行うタンクの中をのぞかせてもらいました。中は肌色の液体から、ブクブクと泡が立ち、バナナのような何とも甘い香りがしてきます。しかし、誤ってタンクの中に落ち込んでしまうと、中に溜まったガスで命の保障はないのだとか・・。


 


静かに冷え込んだ蔵の中で、無数に息づく酵母たち。杜氏の皆さんが、この小さな生き物たちと共に過ごしてきた100年以上の長い歴史を想像してみると、お酒の味もまた普段と違ったもののように感じました。


蔵の前に飾られたすがすがしい杉玉をバックに記念撮影をして、蔵をあとにしました。


 


14:45 美寿々酒造株式会社 蔵元杜氏 熊谷直二さん
美寿々酒造さんは、塩尻地区で最も小さな酒蔵です。杜氏の熊谷さんは、白髪ににこやかな笑顔で、丁寧に説明してくださいます。今のような寒い時期は大きなタンクをマットで包むなど、細かい温度管理のために色々と工夫をされています。現在、杜氏のなり手は少なくなっているそうですが、
「杜氏さんのお仕事で大変なのは、どんなところですか?」と尋ねてみたら、「毎日の仕事だから、特に大変なことなんてないですよ。」と笑って答えてくれました。
豊かな水や米など酒造りに適した塩尻の環境で、美味しいお酒造りのためにコツコツと取り組む、酒造りへの愛情を感じました。


 
16:30 木曽平沢
酒蔵のあった広々とした平野から、漆器のまち「木曽平沢」にやってきました。伝統的な家が多く立ち並ぶ、山あいの静かなまちです。

○うるし工房石本玉水 石本則男さん
うるし工房石本玉水の石本則男さんは、Uターンで漆工になった第1号として当時の新聞に取り上げられたそうです。
また、漆塗りには様々な工程があり、職人さんどうしの分業で成り立っているそうで、石本さんは、特に“沈金”の技術を使った作品を得意としていらっしゃるそうです。
この後、実際に漆器に絵を描く体験をさせてもらいました・・が、真っ直ぐ線を引くことすら難しい!繊細な絵柄を描く職人さんのスゴさに、改めて感じ入りました。



○白木屋総本家漆器店の宮原義宗さん
つづいて、白木屋総本家漆器店の宮原義宗さんの工房にお邪魔して、お話を伺いました。
宮原さんは30歳代ですが、漆工の中では最若手の世代になるそうです。
「私の家は代々漆塗りを家業にしており、父親の後を継ごうと思い戻ってきました。」
「父親も現役の漆工として働いています。しかし、新しいニーズを作っていくことも大事ですので、父親とは別に、名古屋城本丸御殿などの文化財の修復に携わるなど、技術を活かす道を模索しています。また、意外に思われるかもしれませんが、漆は木に対してだけでなく色々な素材に塗ることができるので、例えばスマートフォンのカバーにも、漆の塗りを施した製品を開発したりしていますよ。」
伝統芸能の技術をしっかり身に付けつつ、新たなチャレンジを続ける。ひとりひとりの職人さんの努力が積み重なって、伝統芸能は継続し発展していくのだと思いました。


 


18:00奈良井宿 到着
辺りもすっかり暗くなった頃、奈良井宿に到着。ここは、中山道の宿場町として栄えたまち。江戸時代の宿場町そのままの玄関口では、アイスキャンドルでのお迎えです。
おぉ~!皆、テンションが上がります。



料理は地元食材をふんだんに使っており、これがまた、地元のお酒と絶妙にマッチします。
食事会には、先ほどお話を聞かせてもらった宮原さんと、同世代の漆工の岩原さんが合流してくれました。
岩原さんも、新しい分野への挑戦を続けているそうです。
年齢の近い職人さん達との会話から、新しいアイデアが生まれた!という参加者も。



2月7日(日)


昨日の“和の塩尻”に続いて、本日は“洋の塩尻”を探索します。
10:00 長野県塩尻志学館高等学校
志学館高校では、日本で唯一、ブドウの栽培からワインの醸造まで高校生が手がけています。
ワイン造りに携わった高校生3人に、将来の夢を聞かせてもらいました。
「将来は、一人一人の好みに細かく合わせたワインを造れるようになりたいです。」
「今はまだ、自分の故郷でワイン用のブドウが採れないけど、将来、故郷で栽培したブドウでワインを造りたいです。」
「香りについて研究するつもりです。もっと探求したい。」
と、熱く語ってくれました。将来の活躍が楽しみです!



続いて、教諭の唐澤靖先生よりお話。


「この学校でも、教師は、私を含めワイン造りに関しては素人の場合がほとんど。しかし、独学を続けて粘り強く取り組んだおかげで、ここの生徒が造るワインは、今やどこの学校のものよりも美味しいですよ。」と胸を張ります。
それもそのはず。ここで造られたワインは、プロの厳密な審査による「長野県原産地呼称管理委員会」の認定を受けているのです!
校内見学ののち、お待ちかねの試飲タイム。
コンコード種というブドウを使用したワインは、すっきりとした爽やかな味わいが印象的でした。


 12:00 La maison gourmandise 友森隆司さん


 塩尻の野菜が一番美味しい、塩尻の食材だけでフルコースが造れるという友森シェフ。ニコニコと笑顔で話してくれました。
「僕は広島出身なんですが、いわゆるIターンで今ここにいます。塩尻に縁があって、こちらで店を開こうとしたときには、知人からは反対されました。しかし、塩尻の食材に惚れ込み、また周囲からもとても協力してもらったこともあって、塩尻に根をおろす決意をしたのです。」
出していただいた野菜サラダやスープは、もちろん塩尻産食材でうまみたっぷり。つづいて出て来たメインのお肉は、ジビエの鹿、そしてクマの肉!
塩尻で取れる全ての食材を使って、フレンチの技法で調理する「塩尻キュイジーヌ」を堪能しました。



また、友森シェフは、昼の時間を使って地域への料理教室を開いたり、高校などで調理の講師を務めているそうで、
「僕を温かく迎えてくれた塩尻への恩返しとして、“塩尻に食文化を残したい”と思っているんです。お店にいるより、こっちの方を大事にしているくらいですよ(笑)。」
友森シェフのお話は温かくて、心地よく心に響きました。


13:30 株式会社林農園 五一ワイン 製造部長 添川一寛さん
林農園・五一ワインは、100年以上の歴史がある老舗のワイナリーです。
現在、塩尻市内には10のワイナリーがあり、「桔梗が原メルロー」は国際的にも高い評価を受けていますが、そのパイオニア的存在でもあります。
醸造所では、アイスワインを造る過程のブドウのエキスを試飲させていただきました。濃厚な甘みと爽やかな香り。アイスワインは自然にブドウが凍る北海道でしか造れないと言われているのですが、ここ長野でも技術を工夫して取り組んでいるそうです。
老舗ワイナリーですが、今でも進化を続けているのです。
ワイナリーを案内してくれた添川さんに、長野のワインの素晴らしい点を尋ねてみました。すると、即座に一言。「人です。」


ものづくりは、人づくり。


塩尻にすばらしいものがたくさんある理由、分かった気がしました。



15:00 振り返り
1泊2日の短い旅でしたが、皆さん、とても濃密な体験をされたようです。
振り返りでは、
「出会う人、皆が濃かった。(笑)」
「地域のいろんな人が、一体となって盛り上げようとしているのが印象的だった。」
「高校生が、自分自身で将来を選択して頑張っている。また、地域で働くことを積極的に選んでいる。素晴らしいことだと思う。」
「地域づくりは、内輪の感覚になってしまいがちなところもあるが、商工会との協力などで、外向けにとてもいいアピールができている印象があった。」
「自分にとっても、人間関係を改めて考えるきっかけとなった。」


などなど、たくさんの刺激があったようです。



今回の旅では、塩尻の皆さんが、すごく明るく話をされる姿が印象的でした。


ものづくりの伝統を持つ塩尻では、人を育てることをとても大切にしていて、そのことでいっそう地域が魅力的になってきているのだと思いました。
一人一人が、地域をもっと良くしたい!とキラキラしているまち。
そんな塩尻へ、人に会いに来てみませんか?


 


(レポート:渡辺岳夫)