シブヤ大学

授業レポート

2014/12/5 UP

日本刀の魅力を読み解く
~私たちが受け継ぐものとは?〜

表参道の賑わう大通りから1歩脇道に入ると、今回授業を行うBA-TSU ART GALLERYが見えてきます。正面入り口にはどーんっと甲冑が据えられていて何やら厳かな雰囲気。道行く人は写真をパシャパシャ。

「日本刀」と聞くと「怖い」「危ない」といったイメージを持つ人は多いのではないでしょうか?今回はそのイメージを180度覆される魅力満載の授業でした。

まずは刀剣商の飯田高遠堂5代目当主、飯田さんの「はじまりの挨拶」からスタート。
日本刀に一礼をすると、自然と場の空気が変わります。
飯田さんがおっしゃるには、日本刀の歴史は古いものの平安武士の武器は弓矢、戦国武士は火縄銃で、日本刀で人を切りつけることはほとんどなかったということです。
また、江戸前期は喧嘩両成敗があったため、武士は争いを避け、江戸後期に入ると、商人たちが贈答用あるいは美術品として日本刀を扱っており、争いごとに使われた記録はないということでした。江戸の人は、日本刀の表面に映る様々な刃紋を見て楽しんでいたということです。

な・・なんと。私が時代劇で得た「日本刀=人を斬るもの」というイメージがあっさり崩れ去りました。
さらに飯田さんはこう強調なさいました。
「日本刀が武器だという認識をゼロにしてください。」
私を含め授業を受ける方々の日本刀に対するイメージがリセットされたところで、いよいよ職人の技と体験鑑賞です。

刀鍛冶・研師・鞘師職人の方々から、製造工程や技の説明を受けます。
-刀鍛冶
玉鋼という原料を熱する→鉄を錬る工程作業を繰り返して刀剣の形を作るには、およそ1ヶ月かかるとのことです。驚いたのは整形する際に、ほとんどヤスリを使わないということ。さらに、長い太刀でも通常の刀でも、刀剣の目方(=重さ)はあまり変わらず、重心の位置を変えて調整するのだそうです。

-研師
何種類もの砥石を使い分け、1ヶ月から2ヶ月ほど磨き上げます。江戸時代から愛でられていたという刃文と呼ばれる焼きの模様をより綺麗に見える様に砥石で刀に化粧をしていきます。研師のこの工程はまさに芸術的な感性が求められるのです。

-鞘師
鞘には加工しやすいホオノキを使い、何種類ものノミを使い分けて仕上げていきます。鞘の中で刀が当たるとすぐに錆びてしまうため、鞘の中で刀はギリギリ浮いている状態を作るということです。寸分の狂いも許されません。

続いて、待ちに待った時間がやってきました。実際に日本刀を自分の手で持って鑑賞したのです!
日本刀の前に立ち、一礼をしてから両手で垂直に持ち上げ、その「姿(=形)」をよく見ます。刀の反り具合によって、その刀が作られた時代が分かるそうです。また、地鉄の模様で原料の産地が分かるので、場所が特定できるのだとか。
次に片手に持った布で刀を下から支え、光に当てる角度を変えて刃文をじっくり観察します。刃文には色々な模様があるのですが、それを見ると制作者の特徴が出るが分かるとのことです。
日本刀を鑑賞すると、「時代・場所・人物」に思いを馳せることができるんです。手に持った瞬間はとても緊張しましたが、光の下で輝く刀はまさに芸術作品でした。

授業の後半は、今回の先生である飯田高遠堂5代目の飯田さんとstudio仕組代表の河内さんから、日本刀との向き合い方や将来への想いについて語って頂きました。
そもそも現在の日本には登録されているだけで、300万振の日本刀が存在しています。でも悲しいことに、その家に代々伝わる日本刀を何も知らない家族の人がたまたま発見した場合、危ないものだと思ってしまい、処分してしまうケースがあるそうです。また、日本刀の購入者は外国人が多く、彼らの方が日本刀に対して伝統文化財という意識を強く持っているのではないかとのことでした。
気軽に購入できる値段ではありませんが、この授業のように、日本刀の魅力を世の中に伝えていくことが、日本人の日本刀を見る目を変えていくことにつながるのではないかと思いました。
そこに、アートディレクターの小熊千佳子さんが加わり、この日にお披露目された日本刀と3Dプリンターで製作したアクリル製「鞘」とのコラボ作品「澄鞘(Sumisaya)」を例に、伝統工芸・文化と現代につながるデザインの面白さについて、お話しをうかがいました。

最後にお2人からメッセージをいただき、授業を終えました。
飯田さん「日本刀は過去を知るタイムマシーンです。1000年前のものが現代に残っていることへの尊敬の念を抱きながら、さらにこの文化を後世へ伝えていくことが。大切だと思っています」。
河内さん「日本刀のファンを増やしたいと思っています。海外の人も日本の人も両方です。もし博物館に行って日本刀を見かけたら、正面からではなく照明に沿って横から覗きこんでみてください。機会があれば、ぜひ学芸員の方とお話してみてください」。


(ボランティアスタッフ:岩崎恵美)