シブヤ大学

授業レポート

2014/11/21 UP

地域づくりの時代に
2限目:「食べる通信の挑戦」

「地域づくりの時代に」2限目の先生は、NPO法人東北開墾の高橋さん。



「東北食べる通信」において、
東北の生産者を紹介し、付録として、その生産者の方々が心をこめて
作った旬のもの、蕨や海産物を、都市部の人々に届けています。


「食べる通信」についてスライドショーで説明してくださるのかな、と思いきや、
授業90分のうちなんと80分ほどは表題スライドのまま…!!

地方のこと、都会のこと、現代のこと、食のこと。
「食べる通信」を通して、ぐっと深い切り口で今の日本を語ってくださいました。


***

まずはじめは、日本の限界集落の風景について。

高齢化が進み、雪解けの季節には、豪雪で民家がつぶれ、
自分の家の敷地から出られないおじいちゃんの姿。

そして、おじいちゃんが病気だから、と付きっきりで面倒を見るおばあちゃんの姿。
そんな風景が全国各地に広がっていると、高橋さんは言います。


みなさんは、「2040年問題」について聞いたことはありますか?

2040年までに消滅するかもしれない自治体、
20~30代の女性人口が半減して、人口が1万人を切る自治体が全国にあふれる2040年。

今からわずか26年後のことです。
東京の一極集中が一層顕著となり、
仕事を求める若い人が、決して子育てをしやすい環境とは言えない東京に集まっていく。

都市以外は最低限の公共サービスでつなぎとめられているような、
合理化、言い換えれば、地方の切り捨てが進む世の中。

今は地方と都市がかろうじて血でつながっているが、その頃には
盆・暮れの帰省ラッシュという風物詩もなくなるかもしれない。


首都圏生まれ、首都圏育ちの人であふれる未来。
かくいう東京も「限界都市」であると高橋さんは言います。

介護施設に入れない都市住民、コミュニティが弱く、つながりのないお年より。
「限界集落」と「限界都市」。

どちらも、どちらか一方だけでは、限界が来るだろう。

今の日本は<都市が地方を引っ張る>イメージがあるが、
これからは、<地方が都市を引っ張る>というベクトルもあるのではないか。
そして、2つのベクトルの交点に、何かがあるのではないだろうか。

「地方と都市をかき混ぜたい」と高橋さんは言います。

どちらかを選べと言う方が酷で
もっと都市と地方が交わればいいのではないだろうか、と。

就職と進学、という大きな回路が<地方から都市>には開いています。
じゃあ逆<都市から地方>はどうだろう。


たとえば、「旅行」のような一過性のもの、
あるいは「移住」のように、よほど腹をくくらないと厳しい回路しか開いていないのではないだろうか。


「旅行と定住の間」のもっと関わりが深く、かつ、
気軽な回路のイメージとして高橋さんが口にしたのが、「参勤交代」。
定期的に行き来するイメージです。

消費者と生産者がつながっていない今、
「食べる」という身近かつ必要不可欠なことを素材として
都市部の人に対して地方にアクセスできる回路をつくってはどうか。

地方と都市をかき混ぜる上で「食べる」は分かりやすいのではないか。

「食べる通信」はこのような想いから開かれた、<都市と地方をつなぐ回路>なんですね。

「食べる通信」では、雑誌と食べものの付録を送るだけでなく、
生産者と消費者がSNS上で交流できます。



また、オフラインでは、両者が集うイベントや生産地を訪れるツアーが開催されます。 
作っている人を見られる喜び。食べてくれる人からの感謝を直接受け取れる喜び。


単なるおいしい食の宅配サービスではなく、
確かな関係性を築くコミュニティまでも提供している点が
「東北食べる通信」のすごさだと思いました。


 


4年前の東日本大震災の際、
食べる通信でつながっていた「あの漁師の〇〇さんがやられた」と
東京の人々が、迅速な援助と安否を気遣うメッセージを送ったそうです。


 
消費者と生産者の関係性を越えた、「自分事」として、
漁師の○○さんを気にせずにはいられない関係性がそこでは築かれていました。



そんな漁師さんは、「今度東京で何かがあったら、こっちへ来い」と言っているそうです。
何かあった時に帰れる場、拠り所となる場が、現代において求められているのでしょう。
「何かあってからでは遅い。日常が問われている。」
高橋さんのこの言葉はずっしりと心に響きました。


 
すでに「食べる通信」がスタートしている地域は「東北」「四国」「東松島」の三か所。
今秋には新たに五つの地域で創刊が予定されており、更に今後3年間で全国で100箇所の「食べる通信」が生まれることを目標にしていらっしゃるとのこと。



食べる人と作る人がつながっている文化が生まれてほしい。
そうしたつながりが自然にあってほしい、と高橋さんは授業おわりに語りました。


 


テクノロジーの発達で劇的に世界は「近く」なり、
すべてが便利になったのかもしれない一方で、
食べものを作ってくれている人、食べる人、お互いの存在が見えなくなり、
感謝の気持ちが伝えられない、感謝されていることを感じることが出来ない、
そんな「遠い」世の中にもなってしまった。


「食」を切り口に、この便利で良い世の中になったとされながら
なにか足りないと感じてしまう、矛盾にみちた世界について考え、
日本のこれからについて深く思いを馳せた90分でした。


 (ボランティアスタッフ:梶 文乃)