シブヤ大学

授業レポート

2007/5/15 UP

     

想像してみてください。自分が今使っているお茶碗が、近い将来、現在の生活様式を知るひとつの鍵になっていたら・・・。まったく想像がつきませんよね。おそらく江戸時代の人も、まさか使っていたお皿(やきもの)が後世で鑑賞の対象になろうとは夢にも思っていなかったはずです。
戸栗美術館で開かれたやきもの鑑賞入門講座も、今回で6回目。

古伊万里の歴史を追っていくと、非常に面白いことが分かります。それは、やきものを通してその時代の空気を感じることが出来るということです。しばし350年前にタイムスリップしてみましょう。古伊万里の経緯を簡単に表すと次の通りです。

初期伊万里→古九谷(こくたに)様式→柿右衛門(かきえもん)様式→金襴手(きんらんで)

今回のレポートでは、主に2つの様式を見ていきましょう。ひとつは初期伊万里。もうひとつは金襴手を選んでみました。

まずは、初期伊万里。文字通り創始期の伊万里焼の総称で、磁器生産が始まった1610~1640年代頃までの作品を指します。初期ということもあって、その形やパターンは様々。同じものはほとんど存在しないといえるほど、大胆かつオリジナリティ溢れる作品が多いです。
中島先生曰く、「たしかに未完成な部分も多いし、色が滲んでいたり、はみ出してしているけれど、だからこそ素朴な温もりがあるんです。」
これは納得です。現代は何でも機械で作れるようになってしまっているので、形や柄の同じ器を大量に作るのは簡単です。しかしそれではオリジナリティがない。完成されたものは、どこか冷たいイメージがありますよね。未完成で素朴なものほど人間っぽい気がします。なかには職人の手の跡が残ったままの器もあるそうで、当時の職人の息づかいまで聞こえてきそうです。

変わって金襴手では、さらに興味深い事実が分かります。この時代(元禄年間)はやけに派手な器が作られます。当時その概念は無かったと思いますが、今でいうとゴージャス。濃厚な染付が特徴で、青の上に赤・緑・さらにその上に金をのせるといった色使い。日本人が得意としている「わび・さび」よりも、見た目の豪華絢爛さに重きを置いた様式で、贈答品として用いられたそうです。推測ですが、この時代はかなり好景気だったのではないでしょうか。
バブルの時代を考えてみると分かりやすいですよね。金色のゴージャスな時計や、やたらと派手な服など。何か共通しているように感じます。好景気の時は派手なものが流行するのでしょうか。最近ですと環境に配慮した日用雑貨が多いので、この時期は環境意識が芽生え始めた時期として、認識されることと思います。
その時代の様子を知ることの出来る貴重な資源。それがやきものなのです。

このように、古伊万里といっても観賞用のものから実用的なものまでその用途は様々。実用的といえば、ある生徒さんからこんな意見がありました。「やきものの色や柄を見て、料理の盛り付けを考えるのが好きなんです。」
なるほど。そういう見方もあるのですね。観賞用としてではなく、何を盛り付けたときに一番やきものの魅力が引き出されるか。芸術ですね。古伊万里に合う盛り付けレッスンなんて授業があったら面白いかも知れないですね。真剣な眼差しでやきものを眺める生徒さんがとても印象的でした。

未完成なものの温かさ、私はそこに「古伊万里」の美を発見することが出来ました。
やきもの入門講座はまだまだ続きます。皆さんも、自分なりの"美"を探してみませんか?

(ボタンティアスタッフ 松森拓郎)

【参加者インタビュー】
①お名前:山口さん(男性)
感想:
「先生の話がとても分かりやすかった。授業を受けられるだけではなく、美術館の中を自由に歩けるのはすごく貴重なこと。また参加したいです。」

②お名前:福沢さん(女性)
感想:
「3回目の挑戦でようやく参加できた。先生の表現が分かりやすく、とても満足です。今度はお皿に合う料理の盛り付け方を学びたい。」