シブヤ大学

授業レポート

2014/1/6 UP

インクルーシブワークショップ ~待ち合わせをデザインする~

 この授業では、「障害のある人もない人も『ともに』創造し活動するコミュニティづくりの支援」をミッションに活動しているNPO法人「Collable」代表の山田小百合さんを講師に、視覚障害のある方をリードユーザーとした「インクルーシブデザイン」を体験しました。

***

土曜日の昼下がり。
往来の人でにぎわう京王線「幡ヶ谷駅」改札からこの授業はスタートしました。
ひとりふたりと改札から出てくる受講生。
「こんにちはー」「シブヤ大学ですかー?」
待ち合わせがテーマの授業だけに、まずは待ち合わせを体験してみようという趣旨のようです。
受付を済ませた受講生の皆さんは1番から5番までのグループに分かれます。
ひとつのグループに一般の受講生が4~5人と、視覚障害のある参加者がひとり。
どうやらこの授業では、視覚に障害がある方を「リードユーザー」として、「リードユーザー」と一般の受講生とが一緒にグループワークを行うようです。

集合した後は、会場となる幡ヶ谷社会教育館へグループごとに歩いて向かいます。
ここで受講生はリードユーザーさんが安全に進めるようナビゲートしていきます。
人通りの多い商店街を抜ける道中には、前から来る人や後ろから来る自転車やシルバーカーを押すお年寄りや道路にはみ出している看板やらなんやらかんやら・・・
たくさんの障害がありました。目の見えている人でさえ、気をつけて通るような通りです。視覚に障害があるリードユーザーさんにとっては危険にあふれているのだと気付きました。

社会教育館の教室に着くと、今回の講師・NPO法人Collable代表の山田小百合さんから「インクルーシブデザイン」についての説明がありました。聞きなれないカタカナ語ですが、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」とはちょっと違うそうです。
曰く「特別なニーズを抱えたユーザーを『リードユーザー』と呼び、その方々をデザインプロセスに巻き込んでいくデザインの方法」だそうです。

山田さんの説明と授業のオリエンテーションが終わると、ふたたび外へと向かいます。実際に待ち合わせの場面を再現し、問題を発見するフィールドワークです。「どこへいってもいい」ということでしたが、私が加わったグループのリードユーザー、エリンギさん(女性)によると、「普段待ち合わせは駅でしかしない」とのことでしたので、幡ヶ谷駅に向かいました。

幡ヶ谷駅につくと、エリンギさんに待ち合わせをする時のことを聞きました。
たくさんお話が聞けたのですが、たとえば構内図を点字で示した案内板。
「点字案内板はあっても、その存在に気づけない」とのことでした。
視覚障害者の役に立つだろうと設置されたものですが、あくまで健常者の視座で作られたもので、障害のある当事者には役に立っていないデザインです。

私が「音を出すか、点字ブロックをつなげればよいのでは?」という解決策を出したところ、
「あー、点字ブロックはですね、つながっていてもその先に何があるかは分らないんですよ」と返されてしまいました。

私も、無意識に見えることを前提にして考えてしまっていたのです。想像力を働かせることの重要さに気付かされました。

さて、教室に戻るとグループごとに発見した課題について整理して、課題解決のためのデザインを作るワークショップを行いました。

付箋にキーワードを書いてペタペタ。模造紙にマーカーでシャカシャカ。
各グループとも和気あいあいとした雰囲気で会話を楽しみながら作業を進めていきます。
色画用紙やモールやボックスなどNPO法人Collableさんの用意した材料を作って課題解決のデザインを表現します。
さらに、寸劇形式のプレゼンも準備します。

私のグループでは、「待ち合わせの相手が遅刻した時に、待っている場所に困る」というエリンギさんの声をもとに「スマート待合室」をデザインしました。
「駅が違ってもホームの先頭など決まったところに必ずある」「視覚障害者は暇つぶしにも携帯電話を重用するので、充電設備があるといい」など、リードユーザーだからこそ提示できる、実体験の伴ったアイデアをデザインに取り込みました。

グループそれぞれに工夫を凝らして面白い発表になりました。「スマート待合室」のほかには、「いちばん近い○○を教えてくれる」アプリや「相手の状況を教えてくれる」アプリなどスマートフォンを活用したアイデアが多かったです。情報技術をどう生かしていけるのかという点が、これからのデザインにとってますます重要なのだと思いました。

***
今回、インクルーシブワークショップを体験してみて感じたのは、障害のあるリードユーザーさんのバイタリティの高さです。明るく朗らかに接して下さったエリンギさんは、とても素敵な方でした。

また、「してあげる」「してもらう」という一方的な関係性でなく、一緒にデザインするプロセスは、健常者にとっても新鮮な発見と驚きにあふれた時間でした。

今回は身体障害のある方がリードユーザーでしたが、インクルーシブワークショップはもっと幅広く活用できるのではないかと思います。たとえば、子育てママとか子供とか。個人的には、喫煙者と禁煙者が一緒になって街をデザインするワークショップをやってみたいです。


(ボランティアスタッフ: 大竹 悠介)