シブヤ大学

授業レポート

2013/9/10 UP

人に会いに行く旅をしよう。 ~ローカルで豊かな暮らし方・塩尻編~

【1日目:2013年8月31日(土)】

総勢25人が渋谷に集合。バスの中では参加者の方の自己紹介あり、塩尻のクイズありと、修学旅行のような雰囲気で旅がはじまりました。ガイド役として、塩尻商工会議所の海津さんと山田さんが4時起きで駆けつけてくれ、朝から大いに盛り上がりました。

■奈良井宿到着&ゑちごや(越後屋)旅館 永井さんのお話
奈良井は江戸から残っている日本で一番古い宿場町。町のお話をはじめ、お店の看板や建物のつくりを説明して頂きながら、1日2組限定という旅館のお部屋へ案内してもらいました。旅籠の時代から旅館を続けて9代目となる永井さんは、お父さんが教師だったことから、奈良井でなく松本育ち。大学で東京に出て箱根駅伝の運営に携わったり、居酒屋で働いたりと、25歳で旅館を継ぐまで旅館関連のお仕事をしていたわけでは無いそうです。しかし今では、川魚を使った地場のお料理を出したり、お客さんをお迎えしたり、洗濯・掃除をしたり・・・一人で切り盛りする立派なご主人。運営や対応力には、色んな経験をしてきたことが生きているように感じました。
また、「近年ではウェブからの申し込みが増えているのですが、電話での会話がないぶん、どんな方が来て下さるのかわからずにお迎えすることに少し緊張したりします。なので、お迎えする際には、きちんとお話するようにしています。奈良井は7割が民家、3割が自宅でお店を営んでいる状態なのですが、ぽつぽつとお店がなくなってきてしまっており、5年後10年後、高齢化/過疎化が進んでいくなかで現実的にどうしていけばいいのか?を考えています。」というように続けていくうえでの工夫や難しさもお伺いしました。


●参加者からの質問タイム
Q 「かなり古い建物だと思いますが修復はどうしているのですか?」
A 永井さん「毎年、地元の大工さんに頼んだり自分で手を加えたりと修復しています。外観は文化庁からの補助金がでるのですが、一歩中に入ってしまうと実費で修復しなければいけないのでなかなか大変ですが、大切に住んでいきたいですね。」

■昼食 & 奈良井宿散策 (グループに分かれて好きなお店へ)
バス内でのクイズの優勝者は山田さんがご馳走するとの"公約"を果たしにお蕎麦屋さんへ。永井さんのグループは屋号が同じ“越後屋”というお蕎麦屋さんへお邪魔しました。ご親戚ではないそうのですが、なんと永井さんと同姓同名の息子さんがいらっしゃるそう。ご近所のお話や、そばがき、さるなしなどご当地グルメのお話をお伺いしました。

食後は奈良井の街のお散歩タイム。水場を見たり、200地蔵を見たりしました。印象的だったのが、毎年8/12に行われる夏祭りのお話。1.1キロにもわたる宿場は上/中/下に別れているそうですが、お祭りの際には3つの神社を順々にまわり、雅楽の演奏をしたり御神輿をかついだりするそうです。年々祭りの担い手も減って来ているそうですが、この日ばかりは外へ出ている人達も帰って来て、祭りを盛り上げているとの事でした。

■VOTANO WINE 坪田さんのぶどう畑見学@洗馬
ちょうど収穫時期でお忙しいところだったので、山田さんのガイドで畑にお邪魔しました。坪田さんは、塩尻に移り住んで11年。ワインづくりにおいて重要なのは原料となるぶどうの出来だと学び、自分が求めるワインの為に全国の土を調べ、塩尻の地を選んだそうです。お伺いしたぶどう畑は当初石だらけの土地で、そこを一から開墾。坪田さんのぶどう畑はつるが一列に配されており、間隔も広めにとられていました。これには理由があり、一人で収穫する際に便利なように、軽トラがはいっていけるようにと、作業効率が考えられたつくり。苗を一度植えてしまうと区画が変えられないので作業効率を考えながら畑をつくることは、かなり重要だそうです。今では、全国から手伝わせて下さいという人が来るというぶどう作りのプロフェッショナルです。
また、夜のBBQには仕事を終えた坪田さんがワインをご持参で来て下さいました。ワイン好きの参加者の方も多く、坪田さんを囲んでワイン談義を繰り広げていました。

■T's Guitars 高橋さんのお話@広丘
普段は入る事のできない工場内を見学させてもらった、T's Guitars。ギターやウクレレを作る工程を案内してもらい、高橋さんのお話をお伺いしました。もともとギタリストになりたくて上京したこと、アルバイトをしたところが松本平のギター製作所だったこともあり楽器屋さんにひきぬかれて修理をおこなっていたこと、ロサンゼルスに行き、大きな街でマーケットを目の当たりにしたことなど、様々な経験を語って頂きました。中でも印象的だったのは、渡米後、東京に帰って来て電車に乗っていた時のお話。
「白黒のスーツに、みんな疲れた顔で電車に乗っていて色がモノトーンだなあと感じました。この中で会社の歯車として働くのではなく、直接お客さんと楽しみを共有できる仕事をしたいと考えるきっかけになりました。そう考えている時に長野アルプスがすごく綺麗に見えて、東京にいる必要はないと感じ地元で会社の立ち上げをしました。塩尻という場所を選んだのは、東京、名古屋、大阪への物流の便利さがあったから。塩尻には人を受け入れる土壌があるし、大都市圏から来てくれた人にも、ここを拠点にレジャーや温泉を楽しんでもらえたら嬉しいです。」試作してみたという青いウクレレを片手に、ここでしか聞けない音やお話をお伺いできました。

●参加者からの質問タイム
Q 「ギターの材料となる木を考えるとアジア圏の方が安いのでは?また、信州の木を使っていたりはするんでしょうか?」
A 高橋さん「インドのローズウッドなど、アジア圏のものを実際に使っている例もありますが少数ですね。ヴァイオリンをイメージしてもらうとわかりやすいと思うんですが、ストラディバリウスが優れた物として評価されるように、ギターも50年代につくられたものがベストという考え方があります。原点のギターに近づけるため、同じ材料を使っているという感じです。
また、信州の木はやわらかすぎるのでギターの作成には向きません。基本的につまった木を材料とするので、北海道の木は使われたりもするようです。」

Q 従業員はどのくらいいるのですか?
A 高橋さん「30人居てエレキが15名/ウクレレが15名ぐらいの感じで仕事をしています。90パーセントが県外から来ていて大阪や名古屋の専門学校を出てから来ています。」

Q 「ギターをつくるうえで気温や温度が重要だと思うのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?」
A 高橋さん「今日は晴れてて明日は雨だとかそれによってコンマ3mmとかずれてしまう。含水率の基準でいうと建築が15〜20%、楽器はなんと7%なので、天気みながら乾燥させることが重要。ギターの仕事はやってもやっても果てしなく、難しいですが実に面白いです。」


■家具工房style galle 藤牧さんのギャラリーgalle_f見学@塩嶺高原
翌日のカッティングボードづくりへの期待を高まらせつつ、クラフトを中心とした作品をみたり、ギャラリーの雰囲気を楽しみました。ひつじの置物をつくるワークショップをされていた作家さんもいらっしゃっていて、参加者の方と会話を楽しんでいました。


■塩尻市塩嶺体験学習の家(宿泊地) 到着。夕食BBQ&地元の皆さんとの懇親会
BBQの野菜やオードブルを用意してくださった、トムズレストランの友森さんに、食事をしながらお話をお伺いしました。

友森さん「今まで、京都、横浜、麻布、フランスと様々な場所で料理をしてきました。しかし、都会で料理をしていた時、ミシュランで星をいくつとったとか、そういったほうにいってしまいがちだった自分に気がつきました。それはそれで素晴らしいんですが、私がしたいのは、もっと人の顔が見える仕事だなあと思いました。特にフランス料理っていうと、価格的に高く、かしこまって食べるものみたいなイメージが日本にはあると思います。そうではなくて、日常の中にあって、もっと気軽に楽しく食べてもらいたいという思いがあった。だから、自分の店では値段もリーズナブルにしていて、家族で食べてほしいと思っています。メニューはなく、その日の朝に穫れた野菜や、川魚を活かした料理を準備しています。地場の野菜、肉も魚も旬のものを食べてもらいたいと思っています。塩尻の食材だけでフルコースがつくれるのもこの場所を選んだ理由です。お客さんとの距離も近く、手軽に、新鮮なものを食べてもらうのがやっぱりいいんですよね。」
オードブルを囲んで、これはなんの野菜ですか?と友森さんに尋ねながら食事する姿も見られ、シェフと話しながら食事ができるっていうのは贅沢だなあと感じられました。

さらに、塩尻のみなさんから地場のワイン含め、アルコール1000円で飲み放題の嬉しいおもてなしも。肉の卸クボタさんからはBBQ用のお肉一通りに加え、マトンやおつまみ用の馬刺しまで用意して頂きました。また、デザートには、レーヌの久保田さんから長芋が材料のカステラ「長芋の里」をはじめ、ガトーショコラなど、選ぶのに迷ってしまうほどバリエーション豊かなスイーツを用意して頂きました。BBQの途中で雨が降って来てしまいましたが、あいにくの天気にも負けず、みんな遅くまで宴会を楽しみました。


【2日目:2013年9月1日(日)】

塩嶺カントリークラブ(ゴルフ場)の早朝散歩でお腹をすかせた後、朝食に地元ベーカリー「麦の穂」のパンと、昨晩も腕をふるってくれた友森さん特製の健康野菜のスムージー、ソーセージにサラダを頂き、2日目がスタートしました。

■家具工房style galle 藤牧さんのクラフトワークショップ
カッティングボードを作る前に、藤巻さんご自身のお話と塩尻という場所を選んだきっかけをお伺いしました。
藤巻さん「長野の朝日村で家具をつくるまでは、サラリーマンとして5年間腕時計を修理する仕事をしていました。しかし、働きながら、このままでいいのかとずっとモヤモヤしていました。デスクワークは向いていないしイライラしてしまう。プレゼンテーションがうまくできなかったりと、行き詰まりを感じていました。
家具をつくりはじめたのは縁あってというのが一番ですが、とても幸せなことだと思っています。最初は家具を、というよりものづくりがしたかったというのが先にありました。実際、転職して家具をつくりはじめたら、稼ぎ頭になれました。祖父、父と建具職人をやっていて自分自身も職人の血が流れているという感じもあり、向いているんだなあとやってみてわかった感じです。
塩尻の中でも、塩嶺高原という場所はもともと別荘地なんですが、静かで緑が豊か。ギャラリーをもって家具をかざりたいという想いはずっとあったので、この家を見つけて自分でリノベーションして色々な作家さんの作品を置くようになりました。普通の山っていうのは人の手が入っているので、杉や松といった針葉樹が多いのですが、このあたりの森は原生林に近くて広葉樹が多い。本当はこういう森をつくっていったらとても良いと思います。松本はクラフトの街、というイメージがあると思うけれど、塩尻って?というように余り知られていない。少し知っている人でもワインの街として認識はしてくれているかもしれないけれど、クラフトにも適した地である事を知って欲しいと思っています。」

ワークで作ったのは、栗の木を使ったカッティングボード。ひのきのイメージが強いため、栗の木は珍しく感じましたが、タンニンが多く含まれるため腐りにくく水をはじきやすい素材だそうです。丁寧にやすりをかけ、仕上げに焼きごてで文字や絵を入れ、参加者それぞれの個性の出たカッティングボードを作りました。


■nanodaのメンバーと大門商店街のまちあるき&昼食
最後の立寄り場所は、塩尻の大門商店街。今までガイドをつとめて来てくれた山田さんがスピーカーとなって、空き店舗をリノベーションしたnanodaという場所の説明からスタートしました。

山田さん「商店街の方と市役所の人間で勉強会を開いていたとき、まず自分自身が評論家にならないよう、プロミスカードを書いて行動に起こすことを大切にしていました。そこに書いた一つが、場所を借りて運営するということ。nanodaは4年間空き店舗だった場所で、みんなでお金を出し合い、今は月1万1千円で借りています。“なのだ”の名前については、建物自体に属性をつけずに誰かが何かをやる場所であればいいと思ってつけました。
ここでの主な活動は3つあります。最初にはじめたのは、“朝食なのだ”。7時から8時まで、出勤前の時間に集まって一緒にご飯を食べるということ。2つ目は、毎月20日をワインの日として定めた“ワインなのだ”。フランス語で20という数字もワインという単語もヴァン、ということもありちょうどいいネーミングだと思いつけました。3つ目は、“お掃除なのだ”。大家さんに頼んで空き家の掃除をするというもの。どの取り組みにおいても共通して大事にしているのは、その場所に住む方との会話をすること。どんな商店街だったのか、どんな人が住んでいるのかを知り、自然なつながりが生まれていく場所であればいいと思っています。
また、一番は誰かがこの場所を借りてくれるのがいいと思っているので、契約を6ヶ月更新にしています。ここを出て行く時は資産価値を高めた状態で渡したいと思っていて、新しいドアをみんなでお金を出し合ってつくったりという工夫もしています。
複合施設の“えんぱーく”立ち上げもですが、自分がここにいることによって、新しい出会いや発見があるのが楽しいですね。」

■旅のまとめ
山田さんから説明を頂いた後、nanodaの運営メンバーである、石井さん、野田さん、横沢さん、吉田さんに一言ずつ挨拶をしてもらい、グループに分かれて商店街を歩きました。5グループに分かれ、それぞれご飯を食べたり、地元の看板やお店を見たり。コロッケのおいしいお店、レトロな映画館、煙突がのこる銭湯、迷路の様な熱帯魚のお店、エアコンの設置がうまい街の電気屋さん・・・解説付きで商店街を歩くと、何気ない風景も面白く感じられました。

横沢さんチームは塩尻名物山賊揚げを食べてから、旅のまとめをすべく「えんぱーく」へ。5チームがそろったところで、お互いの感想をワールドカフェ形式でシェアし、写真日記の作成に入りました。人や街、ランチ情報などをそれぞれ書いてもらったのですが、みんな絞りきれないほどたくさんの写真やメモをとっていました。

●参加者の方の感想
・行きのバスでは、塩尻の事を全く知らなかったけれど、今ではまた来たいと思える街になった。人に会うということは、自分の人生にとってとても重要なことだと思った旅だった。

・最近、東京で暮らしていて人と人のつながりみたいなものが、薄くなっているように感じていた。今回の旅をきっかけに自分から人にアクセスするように一歩踏み出してみようと思う

・頭だけでなく、五感で楽しめた旅でした。はじめて会った人達とこんなに話せた旅ははじめてだった。新しい視点で旅ができたと思う。

・塩尻の人は本当に塩尻の事が好きなんだなあと思った。その人がその場所に住んでいる理由を考えるきっかけになった。

・旅で一番覚えているのは人の事なんだけど、人の人生の一部を共有できた気がして楽しかった。

・ 公務員っていう職業の印象が変わった。計画だけでなく実際に行動してよ
くしていこうというところに、自分も一歩踏み出す勇気をもらいました。

・訪れた場所すべてにおもてなしの心を感じました。自分だけで訪れたらなにげなく通過していた商店街の風景も住んでいる人に解説してもらえて、新たな魅力をみつけることができました。

・ 流行だから、とか、パンフレットに載っているから、というだけでなく、
訪れた場所の背景まで知る事ができた。表面的ではないものが見れた旅でした。

●塩尻市役所のお2人から
・谷田部さん
「パンフレットに載っているような情報のみでなく、ふみこんだ魅力を知ってもらいたいと思って企画しました。正直とても大変でしたが、やって良かったしシブヤ大学が他の地域へのツーリズムを作ったら、嫉妬するかもしれません。」

・海津さん
「企画当初は、本当に来てくれるのか心配でした。でも実際にはこんなに沢山の人に来て頂いて本当に嬉しく思います。今回お店がしまっていて食べに行けなかった場所へもご案内したいし、是非また塩尻へ来て下さい!」

■大門出発→渋谷へ
バス車内や渋谷に帰ってからも盛り上がって、自然と飲み会が開かれたりと、行きまで会った事がなかった人と友人になる、という意味でも満足な旅だったようです。

同じものを見ても、住んでいる人が語る言葉と一緒に見ると違った風景に見える。同じ物を食べても、作った人がどんな思いをこめて作っているかによって
味わいも、変わった物になる。随所におもてなしの心を感じた、丁寧な旅でした。

(ボランティアスタッフ/花輪むつ美)