シブヤ大学

授業レポート

2013/7/3 UP

「スケッチトラベル」という物語の舞台裏

6月26日から渋谷ヒカリエで始まった、
「スケッチトラベル展〜アフリカの子どもたちに図書館を〜」。
※スケッチトラベル展の詳細についてはこちらからどうぞ。
http://sketchtravel.jp

このプロジェクトのこれまでの裏話を、
渋谷でのスケッチトラベル展で協力していたシブヤ大学学長の左京が
小林志乃(ユキノ)さんと松丸佳穂さんのお二人に伺いました。

ユキノさんは、このプロジェクトのプロデューサー、
松丸さんは、寄付先のNGO“ルーム・トゥ・リード“の日本事務所の代表として
このプロジェクトに関わってきました。

ユキノさんは雰囲気も話し方もふんわりした方。
松丸さんは、明るくキリッとカッコ良い印象の方です。

***


◎ユキノさんと堤さんの出会い

サンフランシスコのアジアンアート美術館で受付をされているユキノさんは、
館内で、日本人のアーティストがスケッチしているのを見かけます。
これが堤さんでした。
堤さんと一緒に来られていた方がユキノさんのお友達でもあったため、
その後一緒に食事をし、そこで初めて堤さんとお話ししました。
2007年の8月のことでした。

ユキノさんは当時ちょうど立ち上げたNPOをたたんでしまった後で、
そろそろまた何かやりたいと思っているところだったそうで、
堤さんにもそんな話をしたそうです。

その後、3回めくらいにお会いしたとき、
堤さんから「トトロの森プロジェクト」のお誘いをいただいたのだとか。

後になって「どうして私をこのプロジェクトに誘ってくださったんですか?」
と聞いたら「同じニオイがした」とのこと。

ユキノさんは青年海外協力隊でジンバブエに行ったことがあり、
お母様がルワンダの大虐殺の話を翻訳されている堤さんとは
話が合うところがあったのかも、とユキノさん。


◎ユキノさんと堤さんの役割分担

「ユキノさんと私は似たところがあって、
枠にとらわれず、フレキシブルなところがある」と松丸さん。

ユキノさんに堤さんとの役割分担をお聞きすると、
「私は夢見がちで、堤さんが堅実」だったので、
ユキノさんが広げて堤さんが整理するような分担だったそう。

また、スケッチブックが旅を続けていたプロジェクト最初の頃は、
ユキノさんは何週間かに一度、
サイトの更新を見ていただけだったそうです。


◎スケッチブックが旅をしていた頃のこと

スケッチブックが旅をしていた頃は
参加アーティスト同士で手渡しされていたため、
実物のスケッチブックを見られる機会は
身近なアーティストに回って来たときだけでした。

堤さんは手渡しの同行と新婚旅行を兼ねて
アルゼンチンにも行ったそうですが、
後に奥さんはユキノさんにこうこぼしたそうです。

「たくさん写真を撮っていたのに、私の写真は一枚もないのよ!笑」

堤さん、スケッチトラベルに夢中だったのですね。笑


◎寄付先のこと

寄付先は、いろんな方に意見をお聞きしたそうです。

最初に有力な候補になったのは原丈人さんのところ。
ユキノさんが勤める美術館に原さんがおみえになり、
原さんを見て「模型博物館の人だ!」と気づいたユキノさんが
仕事の合間に時間をいただいてお話しした際、
スケッチトラベルの寄付先について相談したところ、
原さんの団体にしようというお話になったのだとか。

ところが原さんのパイプはスケールの大きい相手が多く
話が大きすぎて進めるのが大変になりそうだったことに加え、
フランスまたはベルギーにオフィスがないと
寄付の受け取りが海外になってしまい大変なのですが、
原さんはフランスにオフィスがなく
そこで事務所が打ち合わせしやすいサンフランシスコにあり、
更にフランスベルギーにもオフィスがあるルーム・トゥ・リードを寄付先に決めたのだそうです。
児童書が少ないエリアで現地語の絵本を出版するなど、
イラストレーターとしてぜひ協力したい事業に取り組んでいるというのも
大きな理由のひとつだったそうです。


◎糸井さんとスケッチトラベル

スケッチトラベルというと、
糸井重里さんが主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」での
堤さんと糸井さんの対談で知った方も多いかと思いますが、
糸井さんとは元々知り合いだった訳ではないとのこと。

たしかに、となりのトトロのメイちゃんは
堤さんの奥様(宮崎駿さんの姪御さん)がモデルですし、
メイちゃんのお父さんの声は糸井さんなのですが、
それはあの対談の実現には全然関係なく。。笑

ではどうやって最初のコンタクトを取ったのかというと、
なんと「代表メール」。
あの、サイト上で公開されているアドレスです。

糸井さんはいつも
あのアドレスに来るメールすべてに目を通していて、
ごく稀に返信されることがあるのだとか。
それをきっかけにあの対談が実現することになったのだそう。
なんでも、やってみるものですねぇ。笑


◎宮崎駿さんのお説教

堤さんはどうしても
最後のページを宮崎駿さんに描いてもらいたくて、
最後から2ページめになる70ページめを
巨匠フレデリック・バックさんにお願いしたそうです。

この方の後であれば
宮崎さんが受けてくださるかもしれない、と考えたのだとか。
なかなかどうして、したたかな堤さんです。笑

お会いしてみると上機嫌で受けてくださり、
無事スケッチブックをお渡しすることができたのですが、
異変があったのは受け取りに伺う時のこと。
なぜか「ひとりで来るように」と言われ、
スタッフを外に待たせて受け取りに伺ったところ、
出てきた堤さんの様子がなんだかおかしい。
描いてもらえなかったのかと心配になるほど凹んでいたのです。

聞けば「15分もお説教をされた」とのこと。
いったい何についてお説教をされたのか、
今も周りには明かさないままだそうですが、
その日の堤さんはいつになくへこんでいたそうです。

ユキノさんの推測では、
他の画家さんの多くが「描くのが怖い」と言っていたので
そういう話だったのではないか、とのこと。

なにせ世界にたった一冊のスケッチブック、
裏は既に他の画家さんが描いているので、
絵で失敗することもコーヒーをこぼすこともできない。
そのうえ他の画家さんと絵が並ぶことになるので
それも緊張に拍車をかけたことでしょう。

実際のところは、どうしてそんなに怒られたのでしょうね。


◎寄付先“ルーム・トゥ・リード”のこと

ここで主な話し手は松丸さんにバトンタッチ。

このプロジェクトの寄付先、ルーム・トゥ・リードは、
アジア・アフリカ地域の10カ国で活動する非営利団体。
「子どもの教育が世界を変える」を信念として活動しています。
http://japan.roomtoread.org/

読み書き能力の育成など、5つのプログラムを柱に、
13年間活動を続けてきました。

設立からこれまでの成果は、
建設した学校は1,600校以上、
つくった図書館/図書室は15,000室以上、
出版した現地語の児童書は874タイトル、
奨学金を提供できた女子児童は21,582人、
教育機会を提供できた子どもたちは7,815,000人。
(2013年6月現在)

2015年までの目標は、
1000万人の子どもたちを支援することだそうです。


◎寄付後のスリランカ訪問

スケッチトラベルプロジェクトによる寄付の後、
堤さんと参加アーティストのひとり、ロニー・デル・カルメンさんは、
図書館・図書室を設立した5カ国のうちの1つ、
スリランカを訪れました。
(堤さんとロニーさんは、その後、カンボジアにも訪問)

スリランカは2004年に津波被害を受けた上、
2009年5月までは内戦状態にありました。

この訪問は、ルーム・トゥ・リードから
「現地イラストレーターにワークショップをしてほしい」
と堤さんに依頼したことから実現しました。

ルーム・トゥ・リードでは、
外国語ではなく、現地のライターとイラストレーターによる
母国語で書かれたによる絵本を出版するため、
ライターやイラストレーターの育成も行っているのです。

二人に同行した松丸さんは、会場のスクリーンで
現地での写真をたくさん見せてくださいました。

ロニーさんも堤さんも、見るものすべてが新鮮だったようで
手が空くとどこでも小さなノートにひたすらスケッチ。スケッチ。スケッチ。
一方で、写真をまったく撮っていなかったのが印象的だったそうです。
また、とてもフレンドリーなふたりではありますが、スケッチをする姿は真剣そのもの。
ピクサーでトップアーティストである理由が少しだけ分かる気がしました。

現地のイラストレーターの反応は上々。
美大を出たものの絵本について学ぶ機会はなかったり、
本業が別にあり、絵本を描いていたりするため、
二人の熱心かつ実用的なワークショップに大興奮だったそう。

参加者も、二人から引き出されるように、
自由に絵を描いていたそうです。
おまけに最初はみんな初対面同士で
食事の時も男女分かれていたのに、
最終日には混じって同じテーブルについていたそう。

その後、スリランカから帰ってしばらく経った頃。
松丸さんとユキノさんに、
堤さんから長い長いメールがありました。

「ぼくはもう、2週間前のぼくではありません。…」

あまりの真剣な長文メールに、
むしろ圧倒されてしまってどう返せば良いか分からず、
結局返信していない、という松丸さん。笑

どんなメールだったのか詳しくは分かりませんが、
この訪問で堤さんが感じられたことは
ほぼ日で語られているので、ぜひ読んでみてくださいね。
http://www.1101.com/sketchtravel2/


◎会場からのご質問

◆お二人にとってどんなプロジェクトでしたか?

◇ユキノさん
 いろんな人を巻き込んで、
 人と人とを繋げるプロジェクトだったと思う

◇松丸さん
 個人的には4月に大きなイベントがあったため、ボランティアサポーターに全面的に任せた
 また、フィアットと渋谷ヒカリエのサポートがなければ実現はできなかった
 趣旨に賛同して、フィアットは協賛金を出してくださり、
 ヒカリエは無償で場所を提供してくれた。とても感謝している

◇ユキノさん
 こういう場所でやることで、
 ふだんこういうイベントを追っていない人でも
 触れる機会ができてよかった

◇松丸さん
 真剣に遊ぶということ、
 そしてそれが子どもたちのためにもなるプロジェクトを
 もっとやりたいです


◆今後の動き、こうなっていったらいいななど教えて下さい

◇ユキノさん
 堤さんと制作している自主制作映画“DAM KEEPER”は
 Facebookに制作過程をアップしています
 8月いっぱいで完成する予定です

◇松丸さん
 「真剣なあそび」をまたやりたい
 きっと今回のプロジェクトを通じて、
 個々人に「何かやりたい」という思いがわいてくると思っています
 それが実現できる環境づくりをしていきたい


◆生のスケッチブックが見たかったのですが、
 今後原本を展示する可能性はありますか?

個人蔵になってしまったため
また一冊の本になっていて展示方法が難しいため
少なくとも今回のような展示は実現が難しそうです


***


お二人の人柄や、
堤さんやロニーさんの人柄が垣間みられる、
裏話たっぷりのすてきなトークショーでした。
メモできた話はできるだけ書き起こしたのですが、
ちょっと書ききれなかった部分もあります、すみません。。

いやあ、展示で見た複製も複製とは思えなかったけれど、
やっぱり原本見てみたいなあ!
買った方、いつかなんとか公開してくれないかしら。笑


(ボランティアスタッフ・伏見千絵)