シブヤ大学

授業レポート

2007/4/3 UP

               

 携帯の電源を切りつつ、「やっぱり病院ってちょっと緊張しますね。」と語る生徒の方々もちらほらと見られた今回の授業は、実際に緩和ケアが行われている日本赤十字社医療センターで行われました。
最初に今回の先生である、日本赤十字社医療センター緩和ケア科部長秋山 修さんから緩和ケア科に入院していた患者さんについてのお話がありました。
その患者さんには小学校入学前のお子さんがいて、せめて入学式まで生きていたいという思いが強くありました。しかしそれを実現することはかなわず、家族にお別れを告げてからこの世での生活を終えました。その患者さんの不安や心の痛みは、自分自身の死への恐怖だけではなく、残していかなくてはならない家族を案ずる思いから生まれたのではないでしょうか。

『緩和ケア』とは、ガンやエイズの末期症状を抱えている患者さんに対して、痛みを和らげるために行われる治療を指します。そして、私たちが感じる痛みの種類には4つあるようです。
①肉体的苦痛:痛み、吐き気、めまいなど。薬を適切に服用することによって苦痛の程度を軽減することができる。
②精神的苦痛:これは、生活の変化や身体の痛みから生じるもので、今までとは違う状況におかれたことによるストレス、抑うつ感など。
③社会的苦痛:闘病生活による経済的な困窮や、社会とのかかわりの減少から生じるもの。
④霊的苦痛:今までの人生の価値や存在意義を問うような痛み。意味のある人生だったのか。やり残したことはないか。薬で解決できることではないかもしれませんが、そのような痛みを抱えている人に対して、「ただ、そばにいることnot doing but being」は痛みを和らげる助けになると先生は仰っていました。
このようなすべての痛みをコントロールし、穏やかな人生を生きるための治療をすることが緩和ケアの特徴ですが、とくに③と④も患者さんの痛みであり、ケアの対象であるということに驚きを感じました。家族を残していかなくてはいけないお父さんの痛みは、自分のことだけではなく大切な人に対する霊的な痛みだといえるのかもしれません。

その後、ボランティアスタッフも加わって六人程度のグループになりました。
「あなたのお母さんがガンで余命一ヶ月と診断されたら、あなたはどうしますか?」というテーマでグループディスカッションが行われ、制限時間の20分では少なく感じてしまうほど白熱しました。中には実際にこのような状況を経験なさったことのある生徒さんもいらして、あらためて生と死の近さを実感する場になりました。

その後はスライドを使った講義にうつり、前述の「痛み」の種類や緩和ケアの3原則(症状マネジメント・コミュニケーション・チームケア)の説明と緩和ケア・ホスピスの歴史についてお話がありました。
現在の日本では、緩和ケアとその人らしい生き方を尊重する『ホスピス』という言葉はほぼ同義としてとらえられています。現代のホスピスをはじめたイギリスのシシリー・ソンダースさんについての紹介や、各国での取り組みを知ることは難しい内容ではありましたが、緩和ケア・ホスピスの歴史の流れを感じることができました。その中で秋山先生がおっしゃっていた「私たちは一生死に向かいつつある。しかしそれは逆に言えば死ぬまで一生生きるということ。」という言葉は特に印象的でした。当たり前のことと言ってしまえばそれまでですが、私たちが死に直面した時も同じように当たり前のように考えることが出来るでしょうか?
わたしたちはついつい、何かしなくては、してあげなくてはと思ってしまいます。しかし、ただそばにいる、ただ話を聴く、誰にでもできるかもしれないことを実行することで、大切な人の人生を豊かにできるかもしれません。誰かと一緒にいる安心感。離れずにそばにいてくれる信頼関係。わたしたちは様々な関係性の中で生きているということを思い出すことができる授業でした。

(ボランティアスタッフ 山崎晋)
 

【参加者の方からのメッセージ】

今日、「心」に寄る授業に参加しました。なんとなく気持ちを伝えたかったのでメールしてみました!最初に秋山さん(娘さん)に指されて、自分の体験をちょっとお話させていただいたんですが、私もちょうど1年前にガンで父を亡くして、緩和ケア科にお世話になりました。だから、今回の授業は今までとちょっと違う気持ちで参加しました。私も含めみんなそうだと思いますが、「死」について考えることは日常的にはあまりないと思います。ましてやどのように死を迎えるか、そして大切な人を失う時、どう看取るかなんて私自身、父が病気になるまで考えたことありませんでした。でも、今日の授業でもあらためて感じましたが、自分らしく生きることと同じように、自分らしく死を迎えることはとても重要なことなんですよね。過去に私と同じ経験をしてる方、現在されている方、看護師の方、いろんな方にお会いできてよかったです。もうちょっとお話したかったくらいです。緩和ケアでは、担当医も看護師の方も本当よくしていただきました。父の意見を尊重しながら痛みをとるようにしましょう、といった姿勢でした。家族で過ごす時間も増えて、とにかくたくさん話して、笑った日々でした。仕事ばかりしていた父は、「みんなには申し訳ないけど、今が一番幸せなんだ」と言っていました。
本当に穏やかで、静かで、いろんなことから解放されたんだと思います。そして当たり前のことに感謝するようになったからだと思います。最期の言葉は亡くなる3日前に深々と頭を下げて、私たち家族と先生にこう言ったんです。「ありがとうございました」緩和ケアはまだまだ少ないみたいですね。でもこの言葉だけでも知ってたら、もしも自分自身の身に起こった時に選択肢として、あるだけでも随分違う気がします。そして、今日の授業のようなことを考える機会があったら、少しだけ「今」を大切に出来る気がします。私のグループには「あまり家にいないんです」と言ってる方がいましたが、例えばそんな人が帰ったらお父さんと話そうかな、とかお母さん何してるかなとか、思ってくれるといーですよね。秋山さん親子が一緒にハーブティーを飲む時間を大事にしてると言ってましたが、それって本当に大切な時間だと思います。何気ないことだけどいつかそれがすごく大切な思い出になると思うんです。お仕事でお忙しいところ、秋山先生、恵子さん貴重なお時間ありがとうございました!お疲れ様でした! 

(参加者 古野沙織さん)