シブヤ大学

授業レポート

2007/2/26 UP

        

授業開始とともに水筒の話を始める辻先生。自前の水筒を持ち上げ「I love you!」と一言。「好いとう」は九州地方の方言で「好き」の意味。東京生まれの私は分かるまでに一瞬時間がかかりましたが、会場の生徒さんは辻さんの一言で一気に和んだ様子。今日はシブヤ大学開校式で先生を務めた、乙武洋匡さんも生徒として参加。とても和やかな雰囲気で始まりました。
自動販売機というのは24時間飲み物を温めたり冷やしたり、本当にたくさんのエネルギーを消費しています。そんな自動販売機も日本に555万台にも普及し、しかも全て24時間フル回転。これは原発1個分にも相当するものだということを水筒愛好家の辻先生は教えてくださいました。確かに自動販売機は便利です。とかく現在の日本は便利なものを常に追い求めているように感じます。毎日が情報に、流行に、全てがハイスピードで過ぎていく現代。「便利=時間を短縮すること」そんな流れに疑問を投げかける今回の授業でした。

今回は宿題として「自分にとっての幸福度を測るモノサシ」をあらかじめひとり9つずつ提出している生徒さん達。辻先生はそんなみなさんの宿題を発表してくださいました。
「おいしいものを食べる回数」「好きな音楽を聴いている時間」「一日に読書をしていた時間の長さ」たくさんありましたが、どれも語尾が時間の長さを表しているものでした。しかしこの時間も多ければいいというものでもないし、何やらこの時間の長さというものが今回のキーワードになりそうです。

私たちは「GNP(国民総生産)」や「GDP(国内総生産)」のように「経済成長」を表すものこそが、当たり前のように国の豊かさを表す「モノサシ」であると思い込んできました。しかしその豊かさを求めるがゆえに争いが起き、環境問題が引き起こされています。
GNPのP「Products(生産物・商品)」だけで個人の幸せを当てはめるなんていけない。人々の本当の幸せを考えた「Happiness(幸福)」に。辻先生はこのヒマラヤのブータンの国王が提案した「GNH(国民総幸福)」を考えようと私たちに伝えてくださいました。
ブータンの人々はGDPは高くないけれど、みんな幸せそうに暮らしているそうです。エコスピリチュアルツアー・オーガナイザーのペマ・ギャルポさんは「日本人はいつも急いでいるけど、ブータンは家族の時間をとても大切にしています。ゆっくりは美しいのです。」と語ったそうです。常に時間に追われて生活している私たちよりも、ブータンの人々の方がよっぽど幸せに暮らしているのかもしれませんね。
「豊かさ=幸せではないこと。私たちはもう一度豊かさについて問い直さなければいけません。」辻先生の言葉通り、私たちは便利なものを追い求め、時間を短縮しようとした結果あまりにも多くの犠牲を作り出してきました。「スローであることの美しさ」を教えてくださった辻先生の「スロー・イズ・ビューティフル」という考え方。これは、現代の私達先進国の人々にもっとも足りない考え方なのかもしれません。そして、この考え方抜きに、世界の平和は考えられないのではないでしょうか。
辻先生は授業の最後に、南アフリカの伝住民に伝わるハチドリの物語を話してくださいました。「私は私にできることをしているの」という最後のクリキンディの言葉が、私達全員の心に響きました。幸せのありかた、豊かさのありかた、そして今私たちがすべきこと、改めて考え直すことができた今回の授業でした。

(ボランティアスタッフ 嶋村千夏)