シブヤ大学

授業レポート

2019/3/13 UP

#パパもおうちに帰りたい!

「あ、血液型B型なんだ!じゃあ、やっぱりマイペースなの?」
そう言われるたびにげんなりする。
マイペースなところもあるけれど、ちゃんと状況をみながら行動しようと意識しているので、「B型だから」というイメージで自分を決めつけられるのはすごく嫌なのだ。

でも、私も時々同じようにイメージで決めつけて発言をしてしまう時がある。
例えば、「重たいものは男性に持ってもらいたい」とか、「関西人はお笑いが好き」とか。男性だから私よりも力があるとは限らないし、関西人でもお笑いが苦手な人もいるはずなのに。(TVで大阪出身者は笑いのプレッシャーが半端ないと嘆いていた)

無意識に自分の思うイメージや価値観を相手にも求めてしまい、結果、不快な思いをさせたり、傷つけてしまうことがある。

B型だから。関西人だから。男だから。女だから。

つくられたイメージや、世間の当たり前を壊すには、どうしたらよいのだろうか?
今回の授業には、そのヒントがたくさん詰まっていた。


■変化した「働く」の当たり前

1980年代。日本では、共働き世帯が600万世帯だったのに対し、専業主婦世帯が1,100万世帯だった。
しかし、1997年を境に共働きの家庭が増え、2017年には共働き世帯が1,200万世帯となり、650万世帯の専業主婦世帯を大きく上回った。
女性の社会進出が増え、パパもママも働いているのが当たり前になったのだ。
では、男性の家庭進出も増えたのだろうか。


■育児休業を取る男性は絶滅危惧種!?

男性の育児休業の取得率を見ると、平成29年の数字で5.14%。
そのうち5日未満が56.9%、1ヶ月未満が83.1%で、月単位で育児休業を取得した男子は「100人に1人」つまり絶滅危惧種なのだ。

一方で育児休業を取得したかった男性の数は、20代〜50代で45.5%と、約半数は「取得したことはないが、取得したかった」と答えている。
取得しなかった理由は「職場の人手不足」、「育児休業制度が整備されていなかった」、「取得しづらい雰囲気だった」と職場が男性の育児休業の障壁になっていることがわかる。

また、家事・育児に6時間以上コミットしている男性の第2子以降の出生が85%以上に対し、「ゼロコミット男性」は10%に留まっている。女性が配偶者に対して感じる愛情曲線は出産と共に下がり、この間にきちんと夫婦の時間を共有していないと愛情曲線は回復しないからだ。
さらに、父親も育児を行うことで、子供の不慮の事故を予防できることがわかっており、産後うつになりやすい母親の命をも救うことができるという。

父親の家事・育児へのコミットがこれほど大きな影響を与えることがわかっていても、
育児休業を取得することが難しい男性。

今回の授業の先生である井上さん、土岐さんはこの問題とどのように向き合ってきたのだろう。その答えは二人のクロストークから、見えてきた。


■クロストーク「自分との折り合いのつけ方」

3児の父である井上さんと、2児の父である土岐さん。
二人とも初めから育児に積極的だったわけではない。

井上さんは大手企業に勤め、第1子誕生の後、連日の激務により、妻から「家庭での戦力外通告」を受ける。第2子誕生を機に朝5時に家を出て、夕方16時に退社し、家族との時間を確保する生活にシフトした。

一方土岐さんは、商社→コンサル会社と忙しい会社で勤務し、「働いている自分がカッコイイ」と思っていた頃に、家庭崩壊の危機に直面。
自分にとって大切なことは何か?を考え、妻の仕事に合わせ豊田市に引っ越し、東京でのキャリアを捨てる決断をした。

この決断に至る前は「普通は女性が仕事を辞めるのでは?」と思ったが、妻の「普通って何?」という言葉を受け、世間の常識にとらわれず、家族にとって大切なことを選択することができた。
しかも、育児と両立するために長崎・五島列島から義父を招いて一緒に住んでいた時期も。自分たちの幸せを叶えるために何が必要なのか、どうすれば可能なのかを常に考えた結果だ。

また、「見栄とプライドは別。プライドは、内向き(自分へ)の感情だが、見栄は外向き(人からの見られ方を気にする)の感情。自分がいなくても案外会社は回る。いろんな感情が出てきたときは、プライドか見栄かを考える」と井上さんは話す。

二人に共通していることは、世間の当たり前に縛られず、自分の気持ちとしっかりと向き合っていること。
自分にとっての幸せはなにか?そのために何をすればよいか?を真摯に考え、実際に取り組んでいる。



■クロストーク「家族との折り合いは?」

「家事の分担はどうやって決めたんですか?」参加者から質問があった。
「料理以外は結構色々やっているが、だいたい時間帯で決まるかな」と、二人とも特に明確な話し合いはなかったそう。
また、土岐さんから井上さんへ「ケンカのルールを決めているか?」という質問が。
「子供の前ではできる限りケンカをしたくないが、どうしても難しい。そんな時、どうしてます?」と父親らしいリアルな話が飛び出した。

「子供の前でしないようにしたいけど、子供が3人もいると子供がいない時間なんてほぼない。逆にそこを遠慮していたら、話し合う時間が取れないから、子供の前でも言い合いになることはある。最近は子供が成長してきて、あの言い方はないとか、今回はパパが悪いとか言われるようになった」という家族とのコミュニケーションがあることを明かした。

家族なんだから、ちゃんとぶつかること。
配慮はするけど、遠慮はしないことが、コミュニケーションを円滑にさせている。


■クロストーク「会社との折り合いについて」

家族をテーマに起業した経営者の土岐さん。
従業員が育児休業を取得することについて聞かれると「リモートワークなども含め、会社と個人の信頼関係で成り立っている。両者が対等であることが大切で、信頼関係があればよい」と回答。

「男性の育児休業が義務化されたら」という質問に対しても、
「個人としては、男性の育児参加の良いきっかけになると思う。ただ、経営者としては、
会社の組織スタイルと個人のライフスタイルが重ならないよう、事前に申告する必要がある」など、コミュニケーションの必要性をあげていた。

一方、会社員として、今のライフスタイルを作り出した井上さん。
「会社の人から厳しい視線を向けられることもあった。
でも、誰かがやらなきゃ変わらないと奮起し、会社が変わるように向き合い続けた。
後に続く後輩が育児休業を取りやすいように頑張っていたら、同僚から“井上さんを模倣して早朝出勤を行なったり、育児休業を取った”とメールをもらった。自分のやってきたことが誰かの道になっているとわかり、すごく嬉しかった」と話していた。

会社との折り合いのつけかたは一つではないものの、
信頼関係の構築と日々のコミュニケーションなくして作り上げることは難しいようだ。


■クロストーク「社会に対しての希望」

「男性の育児休業を義務化した方が良い。ただ、今すぐ制度は変わらないので、平日の公園で父親に会ってもあたたかく見守ってほしい。あとは会社で育児にコミットしようとしている同僚を応援してあげてほしい」と井上さんは話す。
土岐さんは、「人生のテーマを見つけてほしい。各自が幸せの定義をもつことが大切になってくると思う。そのことが自身の子育てを豊かにし、子供にも返ってくると思う」とクロストークを締めくくった。


■まとめ

女性が専業主婦をしていた以前の働き方から、共働きの家庭が増え、男性も女性も働くことが当たり前になった。しかし、男性の家庭進出の機会はなかなか増えない。

「女性は男性よりも育児をすることが当たり前だから」という、専業主婦世帯が多かった頃の価値観から抜けだせずにいることが原因なのかもしれない。
忙しいと自分と向き合う時間が取れず、「普通は○○だから」「○○するのが当たり前だから」と見えない誰かの基準に合わせて、考えることを放棄してしまうことがある。
でも、大切なことは自分が心地よい選択をすること。
自分と違う基準に出会ったときは、無理に合わせず、寛容に見守ればいい。
本当の働き方改革は、自分で決めた幸せの基準で働くこと。
そうすれば「性別に関わらず誰もが働きやすい環境」を育む、第一歩になるはずだ。



(レポート:伊藤扶美子、写真:片山朱美)