授業レポート

2019/2/13 UP

「ちがい」を楽しみ、新しい景色をつくるには?

和室に並べられた座布団に、思い思いの関心で集まる老若男女の人たち。その前には同じ目線で座る、先生ふたり。
恵比寿社会教育館で行われた今回の授業は、様々な人たちが互いの考えを車座になって楽しむような、まさに「ちがいを楽しみ、新しい景色をつくる」雰囲気の中で行われました。“先攻”は、高円寺にある銭湯「小杉湯」の三代目・平松佑介さん。



「大事なことはすべて銭湯で教わった」と語る平松さんは小杉湯二代目の息子として生まれ、一旦は住宅販売会社営業やベンチャー企業の創業を経て、2016年10月から「小杉湯」三代目として働いていらっしゃいます。

銭湯というと高齢者中心のイメージがありますが、「小杉湯」には20~30代、40~50代、60代以上が均等に3割ずつ集うとのこと。そして、銭湯は「体を整える」「心を整える」「コミュニティ」「レジャー」の4つの価値があると解説され、改めて銭湯という場がもつ意味を考えさせられました。

そんな平松さんから紹介された取り組みが、「銭湯ぐらし」と「銭湯横の新しい建物の計画」。

前者は、「風呂なしアパート」を「銭湯つきアパート」と再定義し、高円寺に住むデザイナー・建築家・ミュージシャンなどがアパートに暮らし、それぞれの強みを生かした銭湯を舞台にした活動が展開されました。取り組みの中には、アーティスト達が一部屋に住み込んで銭湯をインスピレーション源に作品を作り、アパートの部屋をギャラリーにしたり、銭湯で演劇をするなど、アーティスト・イン・レジデンスのような試みも。
後者は、銭湯を単なるブームではなく生活様式としていくべく新しいチャレンジです。風呂上がりにビールを飲んだり、コインランドリーを利用する間に使うことができる食事スペースを中心とした複合施設を、今年小杉湯となりにオープン予定だそうです。

「お風呂」という家の中にあったものが街の中に開かれていくことで、さらに様々な街と人のつながりが生み出されていく―― 平松さんは、「場所を介在して繋がることは、持続可能なコミュニティになりやすい」と語っていました。

“後攻”は「注文をまちがえる料理店」などのプロデューサー・小国士朗さん。



前職のNHK時代には、『プロフェッショナル 仕事の流儀』風に自分を演出できるアプリ、各番組のおいしい箇所だけSNSで編集配信する「1.5チャンネル」など、放送外企画も手掛けてしまう異色のディレクター。
その根底にあるのは、“大切なことは届かない”という想いでした。それならば“届け方を変えよう”と「注文をまちがえる料理店」などのイベントを次々と手掛け、昨年には事務所を設立し独立されました。

「注文をまちがえる料理店」は、『プロフェッショナル』で取材した認知症介護のプロフェッショナルの方との出会いがきっかけ。それまで認知症について見識のなかった小国さんは、この方の「認知症の〇〇さんではなく、〇〇さんが認知症なだけ」という言葉に触発され、間違えを正すのではなく「まちがえちゃったけど、まぁいいか」とお互いに思えるレストラン…というコンセプトを思いつかれました。
これまでコストと思われてきた“間違い”や“時間”を価値に変えた「注文を間違える料理店」。他にも、LGBTの人たちがその他の人たちと一緒に“見た目”“性別”などによって男湯・女湯を選んで入る「レインボー風呂プロジェクト」、“アートのパラリンピック”というコンセプトでAIさんと一緒に企画した「みんながみんな主役ナイト」など、小国さんのイベントには、固定概念やモノの見方をガラッと変えてしまうインパクトがありました。

お二人のお話しの後は、授業コーディネーターの青木さん、生徒の皆さんを交えてのクロストーク。



「ちがいを楽しめる場をどう作り、どこにゴールを設定しているのか?」という問いに対し、小国さんは「そもそも違いのある人を無理に集めようとはしていない。メッセージを与え過ぎず、各自が解釈できる余地を与える」と語り、平松さんも「ゴールというよりは、銭湯という場を継承していくことを常に考えている」と話されていたのが印象的でした。平松さんの「銭湯という(多様な人が肩書き無しで集う)場に育った結果、生まれつき他人に抵抗が無い」というお話しに、「“ダイバーシティ・エリート”ですね!」と笑った小国さん。「ちがいを楽しむ場」というのは本来、作るものでも目指すものでもなく、私たちの日常の中にあるのかもしれません。

 また、「周りの人を巻き込むコツ」についても質問が多く寄せられました。人といることに抵抗のない平松さんと、人見知りだと話す小国さん…とタイプは真逆なお二人ですが、「全部を自分でやろうとせず、関われる余白をつくる。自分自身がまず本気で取り組むことで、応援したくなる雰囲気をつくる。」(平松さん)、「僕がやりたいではなく、コレをやりたいと伝える。完璧なリーダーではなく、弱みを見せることも大事。」(小国さん)と、自分主導になりすぎないことは共通しているようです。小国さんは“シェア・イシュー”という言葉を使っていましたが、「〇〇社の仕事」としてではなく、「同じ景色をみたい」と思う人々が互いのバックグラウンドを活かして集いあう…そうやって作られた場だからこそ、多様な人々が集う場になっていくのではないかと感じました。

通常の一人の先生ではなく二人の先生がいることで、「銭湯について」でも「認知症について」でもない、お二人に共通するモノが俯瞰的に見えてきた今回の授業。活動の手法はそれぞれですが、その先に思い描いている“景色”には、共通のイメージが浮かびました。このレポートも、あくまで私の私見に過ぎず、様々な立場の参加者が、それぞれに得た思いや気づきがあったことでしょう。“ちがいを楽しみ、新しい景色をつくる”ことが、各自の気持ちの中にも生まれたような、そんな2時間の授業でした。

(授業レポート:菱山久美、写真:野原 邦彦)