シブヤ大学

授業レポート

2019/2/7 UP

1限目:「福祉とビジネス」の未来を考えよう

「LITALICO(リタリコ)」!なんともチャーミングなネーミング!
その名前だけで判断すると、北欧雑貨の会社?イタリアの高級洋服ブランド??
でも実は、「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、就労支援、幼児教室・学習塾などの教育サービスを提供している株式会社。しかも、東証一部上場を果たしている企業です。

授業の講師は、この「LITALICO(リタリコ)」執行役員 深澤厚太さん。
1984年生まれ、教員免許にMBAも取得されていて、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職、NPO立ち上げ経験もあり、入社2年目にして執行役員となられた方。
プロフィールを見た時には、もしや近寄りがたいのでは??と思ってしまったのですが、とても謙虚でフレンドリー、さらに1月に生まれたお子さんの優しいパパさんでいらっしゃいました!

授業は、近くに座った数人によるグループで、参加理由を含めた自己紹介からスタート。その後は、深澤さんからのレクチャー ⇒ レクチャーを受けてのグループトーク ⇒ 深澤さんへの質疑応答へと続きました。
 
 「福祉とビジネス」、世の中のイメージ的には、水と油と見られることの多いこの2つをつなげビジネスとして成功している「LITALICO(リタリコ)」。
さて、秘策は?福祉とビジネスの未来に何が見えてきたのでしょうか?


1.深澤さんの2つの体験

 「まず、今日の本題に入る前に、私自身の体験を2つ話させてください。」と深澤さん。
1つは、悔しかった体験。2つ目は嬉しかった体験。どうやら、この2つの貴重な体験が、深澤さんの入社のきっかけともなり、力の源にもつながっているようでした。

■悔しかった経験
深澤さんが立ち上げに関わったのは、生活保護受給世帯の子どもへの無料の学習支援を目的としたNPO。しかし、徐々に無償ボランティアの大学生たちのやりがいを持続させる難しさを感じるようになったといいます。さらに、自分自身も1ケタ台の給料で将来への不安も広がっていき、悩んだ末に1年でNPOを離れました。立ち上げの楽しさ、持続していくことの難しさ、悔しさを、身をもって体験したそうです。

■嬉しかった経験
 経営コンサルタント会社での新人時代に、上司から誘われたのが、スペシャルオリンピックスのフロアホッケーチームのコーチ。気が付けば10年位になるそうです。福祉という世界の門外漢であった深澤さんの意見を、先輩コーチや選手の家族が快く受け入れてくれたことがとても嬉しかったといいます。チームは、一昨年に日本一になり世界大会に行くことも出来ました。福祉というフィールドの中で、多様な人材が集まり、皆で力を合わせ、勝ちを獲得するという喜びを体験したそうです。


2.リタリコの会社概要

引き続き、深澤さんは「LITALICO(リタリコ)」概要について説明をしてくださいました。
中でも私が感動したのは、社名の「LITALICO(リタリコ)」の意味。英語でもイタリア語でもなく、何と日本語の「利他」と「利己」を掛け合わせてつけられたとのこと。「人の幸せが自分の幸せにつながる。利他と利己のバランスが大事で、どちらかに傾いてもいけない」と言う思いがこめられている、何とも奥深い名前だったのです!

1)「LITALICO(リタリコ)」の概要・企業理念

■沿革
2005年12月:会社設立。「ウイングル」という社名で就労移行支援事業を開始。
2014年6月 :「LITALICO(リタリコ)」に社名変更。
2017年3月 :東証一部に上場
■社員数
2,000人弱。
■企業理念:
「世界を変え、社員を幸せに」
■企業ビジョン
「障害のない社会つくる」

2)「LITALICO(リタリコ)」の事業

① 「LITALICOワークス」(就労支援サービス)
  一般就労を目指す方への就労支援サービス。全国に66拠点あり、毎年1,100名ほど、昨年度は約1,200名の方が一般就労の道に就いています。

② 「LITALICOジュニア」(ソーシャルワーク&学習教室)
早期発見、早期介入の大切さに気が付きスタートさせた、放課後デイサービス・児童発達支援という公的福祉の枠組み。100%利用者様負担の教室も併設しています。全国で約100拠点、利用者は約8,000名。

③ LITALICOワンダー(IT&ものづくり教室)
「LITALICOジュニア」をする中で、個性を活かしていくことと、ITやものづくりとの相性がとても良いことがわかってきたことからスタートした事業。100%利用者様負担で実施しています。

④ 「LITALICO発達ナビ」(発達障害ポータルナビ)
「LITALICOジュニア」に1万人もの待機者がいることから、少しでも何かしらの情報提供をしたいと開設。月間で300万人ほどが見ているそうです。

⑤ その他
障害のある方の就職情報サイト「LITALICO仕事ナビ」、各家庭に応じた将来設計のお手伝いをする「LITALICOライフプランニング」、子育てスタイルを提案するウエブサイト「Conobie」なども立ち上げています。


3.「LITALICO(リタリコ)」の福祉とビジネのスモデル

さて、話は、いよいよ「LITALICO(リタリコ)」のビジネスモデルへ。
深澤さんは、「今日のテーマが福祉とビジネスということで、関心を持たれているかと思いますが、実は、売上げ構成比の95%は、就労移行支援・児童発達支援などの公費事業です。そのことを踏まえたうえで、今日のテーマに通じると思われることを2点あげさせて頂きます。」と切り出されました。
その1点目は、スケールメリット活かすこと!2点目は、多様な人材の確保と定着のための環境づくり!さて、この2つとは具体的にどのようなものなのでしょうか。


1)スケールメリットを活かす取り組み

① 販管費(販売費及び一般管理費)削減
スケールメリットを活かし、販管費(販売費及び一般管理費)の削減努力をしているそうです。
リタリコは全国で約170事業所を展開していますが、公費事業が主であることから、売り上げの天井は決まっている。人件費、家賃などの支出を削るのも難しい。そのような中で、本社組織を置き、プログラム開発費、経費請求事務などを包括的に行うことで、一事業所あたりの費用を減らし、次の出店の余力も生み出しているそうです。

② ブランド統一による合理化
以前、ワークス、ジュニア、ワンダーの3つの店舗事業は、すべて違う名前だったため採用の際にスケールメリットを活かせなかったそうです。2年前に名称を変更し、すべての事業に「LITALICO(リタリコ)」の冠をつけました。さらに、会社のホームページもポップで明るく若い人にも見てもらえるような内容に変更。ブランドを統一して、採用の合理化も図ったことで、現在年間約3万人もの応募者がいるそうです。

③ 福祉業界全体の質の向上
スケールメリットを福祉業界全体の質を上げることに活かすため、他事業所へのサポート事業も始めているそうです。具体的には、「発達ナビ」「仕事ナビ」のサイト内での事業所検索サービスなど。


2)多様な人材の確保と定着のための環境づくり

福祉業界は、他業界に比べて平均給与が低く、リタリコもその点は一緒。多様な人材を確保し、定着させるための様々な環境づくりに取り組んでいます。授業では、以下の5つが紹介されました。

① ビジョンの明確化
株式会社なので、「すごく儲けているのではないか」とか、「給与も高いのでは?」と思われがちですが、基本的には、他の事業所と変わらない給与体系でやられているようです。
このような福祉分野においては、個々のやりがいを高め、なぜ働くのかということをしっかりと社員に提供し、定着させなければ、ビジネスの継続性は困難。その観点から、一番大事にすべきなのは、ビジョンを明確にすることだと考えているそうです。「LITALICO(リタリコ)」のビジョンは、「障害のない社会をつくる」。また、ワークス、ジュニア、ワークスと、事業ごとのコンセプトを設定しました。さらに、コンセプトを実現するためのアプローチも決めました。同じ「LITALICO(リタリコ)」に来ているはずが、先生が変わるとアプローチが変わるのでは困る…ということで、以下の“6つのスタイル”を設けたそうです。

<6つのスタイル>
1. まずは信頼関係をつくる⇒ 2. 信頼関係が作れたらプランニングをする⇒ 3.プランニングが出来たら、やってみたいと思わせ心に火をつける⇒ 4. 心に火が付いたら成功体験につなげる⇒ 5. また来たいと思える安心できるコミュニティーをつくる⇒ 6. 最後には、事業所に来なくても、社会という環境に対し自分で働き掛けていけるようになる。

② リタリコ総会
自分たちのしていることを確認するため、社員2,000人が一堂に会する総会を年に1回開催。総会では、事業所での好事例や、戦略などを皆の前で発表する、全事業所参加のプレゼン大会も行います。今後、何をしていくべきか全体で決めていく場にもなっているそうです。

③ アイデアコンテスト
各事業所で取り組んでいるアイデア、全事業所で取り組んだら良いのではというアイデアを募って、ウェブ投票をしています。

④ 人事制度の仕組み
副業の許可、留学などから帰国した際に無試験で再入社できるカムバック制度、資格取得サポートなどの環境整備にも取り組んでいるそうです。また、調査・研究を希望する社員のために、リタリコ研究所を開設し、専門の外部講師に定期的にアドバイスを頂くような仕組みを作っています。

⑤ 人材育成
初任者研修に始まり、定期的な研修を行っています。また、1事業者あたりに育成者、エリア単位でスーパーバイザイー、事業部ことにシニアスーパーバイザーを置き、迅速に適切にアドバイスを行える仕組みを作っています。


抱えている課題

より長く働いていただくための人事制度が課題としてあるそうです。平均年齢が31歳、14期目の会社。継続的に給与も上昇させなければならないという課題にも直面しており、この点は、長く運営されている事業所の方にアドバイスを頂きたいと思っているそう。また、多様なキャリアパスの確保、育休あけのママの働き方などとも向き合っているそうです。

ビジョンやコンセプトの実現に向けての挑戦
  
ビジョンやコンセプトの実現に向けての新しい挑戦も始めています。皆がやりたいと思うことを具現化することで、キャリアパスにもしていきたいそうです。
<新しい挑戦>
① 事業所の外に出ての訪問支援、ノウハウを伝える間接支援
② 児童養護施設への訪問支援(都内で5か所)
③ 少年院・少女院での学習支援


4.グループでの感想の共有~質疑応答

 深澤さんのレクチャーを受けた後は、グループに分かれて、感想の共有と、深澤さんに対しての質問をまとめる時間をとりました。各グループとも、活発な話し合いが行われていました。
 質疑応答タイムでは、人材育成、給与などなど、運営(経営)ノウハウに関しての質問が多くあげられていたのが印象的でした。時間が足りなくなるほどの勢いで、教室全体が熱い対話の場となっていました。
すべて、ご報告したいのですが、以下2つ、株式会社についての業態に関しての問いをご報告します。

Q なぜ、株式会社としたのか?
A 潤沢ではない福祉分野でより良い人材や資金を集めるときに、株式会社にして上場させ市場を開放した方が、よりお金が集まり、新規事業の投資も出来るし、福祉分野全体の質の向上も期待できると考え、手段として選択した。

Q 社会福祉法人との壁は感じるか?
A 一緒に福祉全体の質を向上させたいと思っている。


5.まとめ

授業コーディネーターの吉川さんは、深澤さんのレクチャー後の感想として
「すごい裏技があるかと思っていたけれど、実は地道な仕組みづくりをされていて、しかも9割が公費事業である事業所の運営と聞いてびっくりしました。」と語られました。私も同様でした。

その地道な仕組みづくりの中で特に力を入れられていたのが、理念やビジョンに共感し、共にその実現のために働くことの出来る人材の確保、育成、定着についてのことだったように思います。

つまり!?
深澤さんの話や、参加者との対話から見えてきた「福祉とビジネスの未来」とは・・・。
その鍵をにぎるのは、やはり人材、いえ人財!人こそが財を産みだす、未来を創り出す鍵ということではないでしょうか。

「LITALICO(リタリコ)」が2年前に、“深澤さんと言う人財”を得ることが出来たことで、さら成長を続けていることが、そのことを裏付けているように感じます。

深澤さんが繰り返し語られていた、“福祉全体の質を向上させたい”と言う思い。
これは、営利、非営利を問わず、共通のビジョンとして大切にしなければならいと事と感じます。
各々の強みを活かし、補完しあいながら、福祉=人の幸せの未来を共に創りだしていくために、今回のような対話の場が、今後益々必要になってくる!と思った授業となりました。


レポート:大谷 蓮壽