シブヤ大学

授業レポート

2018/12/14 UP

コミュニケーションデザインの視点から
「伝わる」ジェンダー平等を考える

今回の授業では、コピーライターの並河進さんからコミュニケーションデザインについて学びました。
後半では「ジェンダー平等をすすめる教育全国ネットワーク」の福家さんからジェンダー平等を阻む問題について伺いました。


■社会問題が解決していく4段階

並河さんは、これまで様々なソーシャル・プロジェクトを手掛けてきました。
(売上の一部で東ティモールのトイレづくりを支援する「nepia 千のトイレプロジェクト」や、手洗いを通して子どもの健康を守るユニセフの「世界手洗いの日プロジェクト」、女子高生と大学生が児童労働に関心を持ってもらおうと奮闘するドキュメンタリー映画「バレンタイン一揆」の企画などなど)

様々なプロジェクトを形にしていく中で、社会問題が解決するまでには4つの段階があることに気づいたそうです。
それは

①気づきを与える→②未来へのシナリオの提示→③行動をうながす→④新しい合意形成

ということ。


①気づきを与える

公衆トイレのマナーアップを目的に、日本トイレ研究所主催でつくられた「表参道トイレ美術館」があります。汚いイメージのある公衆トイレを真逆のイメージの美術館に見立て、数名のアーティストがトイレ内に作品を展示。トイレが美術館という美しい場所に変わることで、トイレへの意識の変化を促しました。結果、美術館には2日間で三千人以上が入館し、写真を撮ったり、笑ったり驚いたり…普段は注目されないトイレが大きな注目を集めました。

また、並河さんはたくさんのコピーをつくられています。

「あなたの『アジアの国々』に、日本は入っていますか」
「ごはんを炊かないための炊飯器はない。戦争を起こさないための兵器なんてあるのかな?」

差別的な意識は、日常の言葉の中に潜んでいること。
問題が解決しない理由は、深い心理にあること。
同じ人が、加害者にも被害者にもなること。
たとえ話や数字を効果的に使いながら、無意識に埋もれている事実に気づくきっかけを与えています。


②未来へのシナリオの提示

2015年、国連本部で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。 アジェンダでは、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」が、貧困や不平等、環境といった諸課題に対処すべく策定されています。 

イソップ寓話にある「北風と太陽」のように、問題へのアプローチには、注意喚起・警告をする方法(北風)と、行動に対するメリット・価値を示す方法(太陽)があります。

北風でだめなら、太陽で攻めてみる。
「持続可能な開発目標(SDGs)」は、太陽のような共通のゴールを提示している事例です。


③行動をうながす

ある課題に対して、人々がアクションを起こしやすい仕掛けをつくる。例えば「動画を見る」や「SNSを使う」ことが、その課題を解決するアクションに繋がるなど、できるだけ簡単に、誰でも参加できるようにすることがポイントです。

SNSでの発信は、短い文章と写真だけが独り歩きする恐れがあるため、複雑なことを伝えるには難しい手段です。ハッシュタグ(#)を使う場合は、誰でも口にするような言葉を使うことがポイントです。

並河さん「自分にできることはない、と思うのが風化。できることをつくるのが大切なんです。」


④新しい合意形成

スウェーデン政府は2014年に「フェミニスト政府」を世界で初めて自称し、政府として男女平等を目指すことをアピールしました。すべての閣僚が、あらゆる分野の政策立案や予算要求の際に「その政策で男女平等に近づくのか」を分析した書類を提出し審査を受けるシステムになっています。

日本にも「イクメン」「クールビズ」などという言葉ができましたが、それらのように新しい考え方を示し、表す言葉を考えてみる。それらが世のあたりまえになり、その言葉が役目を終えたときに、問題が解決に向かいます。


■隠れたカリキュラム

「ジェンダー平等をすすめる教育全国ネットワーク」の福家さんからは、学校教育におけるジェンダー平等について伺いました。
「男子は青、女子は赤」と名札の色をわけるなど、学校の中には「男らしさ」「女らしさ」を植え付けるような隠れたカリキュラムがありました。それらを変える手立てとして、「ジェンダー平等をすすめる教育全国ネットワーク」では、男子が先に書かれた名簿を男女混合の「混合名簿」にする活動を約20年前に始めました。社会でも「介護士」「保育士」などの職業における言葉の問題が再考され始めたものの、「男女共同参画社会に示された家庭像は社会を壊す」と主張するバックラッシュ派の反動も強まりました。近年では「不必要な」区別はやめるようになってきたものの、学校でジェンダー問題を論じにくい空気は根強くあるようです。

今回の参加した生徒さんの境遇は様々でした。

部活動に疑問をもつ学生(部長は男子・準備担当は女子と決まっているとか!)、男性ばかりの職場に身を置く女性(金融業)、男性の保育士(2017年時点で全体の約3%と少ない)、専業主婦、シングルマザー・シングルファザー、独身の社会人、等々…

並河さんの「4段階」のお話を聞いていると、解決していく手立てが提示されて希望が湧きました。その一方で、個々人の異なる境遇から問題の複雑さを痛感しました。
立場が違えば思いも違う。
一つの正解ではなく自分にとって心地よいことを選択する権利、「強要されない自由を守ろう」という合意がほしい、と皆さんの話を聞きながら考えていました。

今回の授業は、「シブヤのみんなと作るアイリス講座」プロジェクトの一環として行われました。
活動ブログ

今回の学びをもとに、2月に開催予定の講座を「新しい合意形成」へ少しでも近づけるものにしたいです。

(レポート:中野恵里香 写真:伊藤扶美子)

※今回の授業に参加してくださった方が、グラフィックレコーディングにしてくださいました。掲載許可をいただきましたので、こちらもぜひご覧ください!