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都市想像会議第十五回「地域福祉×都市②」会場

一方、中野さんは埼玉県幸手市で「幸手モデル」という地域包括ケアシステムを10年ほど前から構築しています。「誰にとっても、生きるって大変だよね」ということを前提とし、人に伴奏する面的支援であることがこのモデルの特徴と言えるでしょう。ここで中野さんが着目しているのは、地域の人々が持つ共感の力です。もともと人々が持っている力を生かして地域にすむ人々をコミュニティデザイナーと位置づけ、そうした人々の行なっている活動の中に、専門性を持つソーシャルワークを介在させるケアリングコミュニティの形成という考え方は、多くの地域でも参考にできるものだろうと思います。また、幸手モデルでは「とねっと」という個人の日々の暮らしと健康情報を入力できるITの利用や、何でも相談できる窓口の開設などの仕組みも構築しており、多角的にひとりひとりを支えられる体制づくりを目指しています。中野さんは「猿渡さんのようなソーシャルワーカーでなくても、猿渡さんと同じように“何か変だよね”というところから取り組みを行なっている心ある人たちをどう支援するか、というところから始めたシステムづくり」であり、どのような国の政策になろうとも柔軟に対応できるようになっていると述べています。

お二人の取り組みをうかがって、特に印象的だったのは、いずれも「火消し的な対処ではなく、総務的な視点で見ること」という観点でした。猿渡さんが最後に言っていた言葉が心に残りました。「僕たちはどうしても “傷つかない社会”をつくろうと思いがちです。安心ではなくて、安全な社会をつくりたがる。病院なんて典型です。 “傷ついてもいいじゃないか”って言えるのは地域住民レベルの人たちだし、社会を横展開できる人の中で、緩やかにそういうプラットフォーム・地域ができて、“傷ついてもいいじゃないか”というような社会はそこからできていくものではないかと思います」。いつでもやり直せるし、困っていたらいろいろな支え方がある……理想かもしれないけれど、困っていたらいろいろな助けが実はあるんだ、という社会を目指すには、まだまだやることはたくさんあるようです。

都市想像会議第十五回「地域福祉×都市②」記念写真

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